『星影のワルツ』

 何の予備知識もなく映画館に入り、なおかつ漫然とこの映画を観続けても、いつまで経ってもその意図するところが解らず、最後までただただ戸惑うことになるだろう。私の場合は、作中「喜味こいし」という依代がいたおかげで、いつの間にか感情移入されてしまい、クライマックス「浜辺で、『星影のワルツ』を歌うシーン」では不覚にも涙が出てきた。

 初め、『恋愛睡眠のすすめ』を観ようと思ってシネマライズの窓口に並ぶ。知っての通り日曜最終回は千円。それが、何故か『星影のワルツ』を買っていた。本当に何故かわからん。
 その結果、久々に体を覆う黒いモノが一時的にでも取れたような感じになれてよ〜ござんした。

 作中、常に虚実が入り乱れて観者を惑わし続ける。その実の部分さえ、監督のよりプライベートな個人的体験そのものなのだから、本来赤の他人の観者にはその真意などわかりようはずがない。その虚実入り乱れる展開は最後まで続くのだが、少しずつ、静かに、わかりようはずのない監督の体験する人生と、その家族とが、更には虚の部分までが、観者自身に「すっ」と入ってくるのがすごく心地よい。