『100万ドルのホームランボール』

 最近(?)渋谷「ライズX」で観たドキュメンタリー映画、『ダーウィンの悪夢』『エンロン』そして本作。いずれも途方もない人間の「欲」を扱った内容。『ダーウィン〜』はより豊かにありたいという「先を行く人」達の、無意識にして悪意のない途方もない大きさの欲を、『エンロン』は目的と手段を掃き違えた自滅し、その過程で多くの罪なき人々を道連れにした「会社の中で一握りの裕福な人達」の欲を。そして本作・・・。意図はしていないが、だんだんと扱う問題のスケールが小さく、矮小化しているのはただの偶然か。本作で描かれているのは極めつけに醜く、スケールの小さく、それだけに唯一の救いは、社会に殆ど深刻な影響を与えず、「事件」後は笑って過ごせる物語である。
 話の内容など、イラク戦争と比べるまでもなくバカでもわかる単純さ。「バリー・ボンズのホームランボールの取り合いで裁判まで起こしたいい年した大人のお話」。
 物語の中心となるアレックス・ポポフというおっさん、見事なほど「世界中の人が大嫌い」なアメリカ人を体現するキャラクター。その言動の最初から最後まで、本当にめちゃくちゃ面白いのだが、はっきり言って好意を持てる所など一つもない。そのキャラクターと注目される事件の当事者故にまるで「メディアの人気者」の様に振る舞うがその実「笑わすことと笑われていることを勘違いしている」典型的な素人といった感じが大変痛々しい。メディアにとってこれ以上の道化はないだろう。
 一方、「訴えられた」パトリック・ハヤシ氏。名前と外見の通りアジア系の人である。鋭い方は登場後間もなく気付くと思うが、もうこの人に対しての人種差別からなる偏見の臭いがぷんぷん。ここらは大分後半になって彼に付いた弁護団の正体が明かされることで非常に遠回しかつデリケートに種明かしがされているのだが、恐らく当初は「そっち方面」のかなり激しい攻撃があったのだろう。ただし、映画においてはその部分には殆ど触れられていない。当初は明らかに「原告側が明らかに正しい」扱いだったのに、その原告、だんだんと胡散臭さが滲み出てきて最後には・・・。
 そんなこんなで裁判は始まるが、世間はワールドシリーズの真っ最中。更に言えばアフガン戦争の真っ最中。そんな中で相変わらず続く不毛な争い、更にはこの世間の注目を集める裁判に違う目で注目する判事の野望。作中何度か言及されるように、「戦争中なんだから、この国は現在」言っとくけど。
 裁判が終わっても映画は終わりではなく、その後の顛末が語られる。そこには期待通りの結末と、更には期待と予想を上回るオチまで付いている。お国の若者が海の向こうで殺し合いやってんのにあんまりなめた真似すんじゃねーよ、てとこですね。
 アレックスというお馬鹿のおかげで、あんまり考えなくても楽しめます。かなり真剣に観るとよく言及される「アメリカ社会の問題点」がてんこ盛りに見えてきます。やっぱりアメリカ人は馬鹿だと再認識するでしょう。国技を汚した朝青龍を肯定する人なんていないでしょ?
 そしてもっと馬鹿なのは、こんな国と半世紀以上前に全面戦争かまして散々に大負けした挙げ句、現在なんでも言いなりになっているどっかの島国でしょうな。