『ルドンの黒〜眼を閉じると見えてくる異形の友人達〜』於Bunkamura ザ・ミュージアム

 ミュージアムでの観賞、これほどまでに体力を消耗すること、忘れてました。大概観ている内に疲れてくる。立っているのも辛くなる。おあつらえ向きに置いてあるイス(ソファーならなお)に腰掛ける。そのまま寝る。起きて観賞再開。常に冴えてて良い。欠点は連れがいる時は多少遠慮が必要なこと。
 オディロン・ルドン。テーマは当然の如く「黒」ということだが、私が好きな、晩年多く描かれる打って変わって色鮮やかな「花」を描いた一連の作品もあったこと、思わぬ眼福。花瓶にいくつも刺された花。ありきたりの風景であるように見えて、その実、刺されている花の微妙に現実と乖離している姿に、また自ら自覚する穿った感性の、心の内に躍動することを感ぜざるを得ない。ただ、エゴイスティックな目的を満たすだけのみに、母なる大地より摘み取られ、その生物としての真の目的と永遠に切り離されて花瓶に佇む切り花は、それだけでメランコリックなアイデンティーを宿命付けられた存在と言えないか? その鮮やかな色彩・瑞々しい葉茎・辺りを照らすかのように匂わう香り、それらを楽しむ人間達の眼が及ばない漆黒の時間、そのメランコリックな心象をよりわかり易く変じた姿で、かといって何か、自ら積極的に主張することはなく、ただじーっと、漆黒の太陽の昇る時を待っているような気がする。花瓶に刺された花々が、全て「沼の花」に変じた姿はさぞや不気味に違いない。