清水駅から

 今回の旅行、綿密な計画は殆ど立てていないに等しく、「だいたいの場所」「乗り替え」を多少注意したに過ぎない。綿密な計画を立てても守れる自信はない。単独行動時、迷惑をかける相手もいないため、気楽に、帰れれば良いとする。
 清水に着いたのは9時少し前。乗り換えの全くない駅にしては駅舎は広く作られていて、採光性も良い構造とも相俟って、大変閑散とした印象。漁港と市場が接する海側の改札口は極めつけである。恐らくこちら側は以前貨物の操車場となっていて、旅客ホームと港との間を長大な橋を架ける必要があったのだろう。操車場の名残は現在タクシー乗り場を兼ねる小さなロータリー、ちなみにバス停車場はない。そのほかは殆ど使用用途のはっきりしない広場に。貨物線・恐らくこちら側から乗り替えたのであろう旧清水港線の遺構は全く残っていない。
 その、長大な橋を渡り終え、交通量の多い道路の向こう側に漁港と更に向こう側に市場が見える。時間帯の関係もあるのだろうが、取引等行ってる様子はない。道路から見える場所に食堂が何軒か。市場関係者向けという雰囲気ではないのは、開店時間が昼以降に設定されていることから明らかだろう。外部の観光客向けのような佇まい。うち何軒かは寿司が食べ放題らしい。マグロがご当地の市場、どのようなネタが出るのか大変興味はあったが、少なくとも開店まで待ってのんきに食す時間のないことぐらい、いくら無計画旅行でもわかってはいるため断念。
 その市場を通り抜けてそこの港としては一番端に当たる部分に水上バスの船着き場がある。三保半島は清水から見て、湾を挟んで目の前。海路直線で結ぶのが最短になるため、江戸の昔からこのような需要がある。と言っても、昔ならいざ知らず、自動車で湾をぐるっと回って三保の先っぽまで行ったところで大層な時間が掛かるわけではない。実際、清水駅から三保方面に、10分間隔で運行されているバス路線もある。そのため、現在では船で三保に行くことは少数派であろう。平日、この中途半端な時間に水上バスに乗る輩は、はっきり言って物好きの部類に入ると思う。
 ただ、その物好きから言わせてもらえば、この「清水港」、商業港と漁港が同居しているという珍しい形態。沿岸には、陸から造船所等の工業的な佇まいが確認できる。これを海から眺めることができれば。しかも、もともと富士山を遠景に風光明美を詠われた清水の町、このような妙景が他に望めようか? よって、水上バスへの期待は、結構多ジャンルの物好きの期待に添えるモノだと直感。
 で、船着き場。乗船券の販売等、そこの管理を与っていると思われる建物が一軒。その先に桟橋が伸びてこぢんまりした船が一隻、停戦して客を待っている様子。が、乗船している客の姿はない。
 建物の方に目を向けると、入り口付近に乗船券の自販機、その奥、建物の中はというと、シャッターが半分閉まって様子がよくわからない。自販機の前に船員っぽい帽子を被った男性が二人。なんか緊張感なく雑談している。「客」の到来に一瞬奇異の目。そのうちの歳取った方、恐らく実際に船を動かす船長さんだと思われる方が、こちらが口を開くより早く、「休航あるよ」。先日のペルー沖地震の影響で津波注意報が発令されている関係だろうか、実際に行き先によっては休航となっている便がある様子。話の内容を理解していないような素振りを見せながら「三保方面」についての運行情報を聞くと、今度はもっと乱暴に「休航、休航」。親切で言っているであろうことは何となく伝わるのだが、態度が全くその素振りを見せない、大分損しているオヤジだ。それをフォローするかのように、そのオヤジの話し相手の方の若い方が親切に運航時間を教えてくれる。それによると、夏期のみ臨時運行している「三保」行きは完全に運航休止中とのこと。定期航路の「塚間」行きは運航しているが、次の便は3時間ほど経たないとないとのこと。要するに、現在時刻に船に乗ろうとする人はよっぽどのヒマ人で、そんなヤツのために時刻設定された便利な船はないということである。
 「三保方面なら頻繁にバスが出ているので」ということで、親切に教えてもらう。行き先がほぼ同じの別の交通機関を紹介する時点で、やる気がないわけではないが商売っ気はほぼゼロ、気の良い海の漢である。
 バスターミナルは、駅をはさんで向こう側、散々ケチを付けた先程の長大な跨線橋と駅舎を戻って行かねばならない。自業自得だ。おまけに遠足に向かう幼稚園生の集団にブチ当たり、デモに巻き込まれた時よろしく、向こう側が見えるのに渡れない状態に。
 度重なるトラブルを乗り越え、些か焦り気味にバスターミナルに到着。ところが・・・いくら探しても「三保方面行き」乗り場が見当たらない。聞こうにも職員がいない。そうこうする間に行き先表示を見ても何処に行くのかさっぱりわからないバスが次々と発車していく。しばらくしてこのバスターミナルの恐るべきカラクリにようやく気付く。なんと、三保方面行きはこのバスターミナルからではなく、駅前のバス停から発車するとのこと。そんな重要なことは駅出てすぐにわかるようにしておけよ・・・。
 バスを待つ間、バス停前の商店でペットボトル入りの茶を購入。これから行く先は生活臭の全く感じられない工場街と予想される。本日、静岡もとんでもない猛暑日熱中症・脱水症でぶっ倒れないように水分は十分に取る必要があるものの、これから行く場所にそれらを補給する場所があることを全く期待できない。で、「お茶100円」の張り紙に引かれて購入。店のおっちゃん、常連さんとの会話に忙しく、こちらへの対応が微妙にぞんざい。だがわかるぞ、「あなたは良い人だ(byジョルノ・ジョバァーナ)」。だから別に嫌な気持ちには全くならなかった。しかし、清水はこんなオヤジばっかなのか?
 そうこうするうちに目的のバスが来る。ふと、観光地図をもらい忘れたことに気付き、駅改札前までダッシュ。とっ返して発車一分前のバスに乗り込む。バスを降りる際、乗車の際整理券を取り忘れたことに気付いた。その旨を運転手さんに説明すると無言で頷く。さっきのオヤジ達と同じニオイがするぞ。降りた場所は市街を少し離れて大分風景が変わった場所。生活の香りは全くないが、別の、たまらなく良いニオイがする・・・予感。