笠森寺

sans-tetes2007-08-22

 「岩に巌を重ね〜」とは、出羽の国、険しい奥羽山地を背に偉容を讃えるかの山寺の荘厳な様子を讃えた有名な文言であるが、緩やかな上総の山中、全く別の形で「異様」を讃える笠森寺観音堂には、さしずめ「岩に木立を重ねて〜」との文言が添えられようか。
 この寺の有り様、建立に当たって、少なくとも「余人の考えの及ばぬ」方法で、「何か」に近づくことを強く意識したであろうことは、その建物の足下に佇み、まず戸惑うその登り方、疑義を挟む余地をもって、容易に感じられる。幸いにして、狷介な唯一神を信奉する風習を持たなかった我が国において、冒涜と不遜を理由に倒壊させられることを免れたことに、寛容にして偉大な仏の御心を感謝せざるを得ない。幾百歳、何人がその御心に近付こうとこの急な階段を踏みしめ、或いは大きな感慨をもって新たに仏への執心を得る者、或いはその建物の異様な様相とは裏腹に上から眺める遠景の拍子抜けするほど穏やかな様子に呆れる者。堂の四隅のうち、いずれかの角に腰を下ろし、通りがかる人々の感嘆する様を眺めるも、若しくは人の気も省みず、そのものが仏の題意であるかのような堂を気ままに通り抜ける風の音に耳を傾けるも、地から足の離れた異界においてはまた違った趣も感じよう。この度は、邪魔にならぬよう壁、又は欄干に寄りかかり、多少強めの風から涼を得ながら昼寝をする。
 この場所へは、なるべく夏の暑い盛り、最寄りの駅からでも多少苦労して歩いて訪れた方が、より有り難みを得られよう。