『カート・コバーン アバウト・ア・サン』

 動く彼の姿は一切出てこない。が、インタビューを通じて浮かび上がってくるのはまさしく「真実」の彼の姿。或いは月並みに「素顔の」とでも言おうか。
 作中全く気取ったところなく、淡々とインタビューに答えるカートの姿に、伝説的ロックスターの印象はない。普通に生い立ちを語り、時には感想を述べる。親族のこと、その時その時の生活と密着した街のこと、影響を受けた音楽のこと、バンドのこと、メンバーのこと、新しい家族のこと。幼い頃クィーンを聴いていたことは意外。今となってはありきたりとも思える「悲劇的な横顔」などほとんど感じさせない。特に現在に至るまで未だに論ぜられることの多いコートニーとの関係について、至って「常識的」な解答であることに、些か拍子抜けする方もいるのでは。当然、漠然とであるが、自分と、音楽と、家族とについての未来も肯定的に、「小市民的」に語られる。だからこそ、最後のインタビューの一月後に訪れた結末はよりより大きな悲劇となるのかもしれない。彼が「ろくでなし共のクラブ」に仲間入りする理由など微塵もなかったのに・・・。
 因みに、作中にニルヴァーナの曲も全く挿入されない。映画の演出上、その方が良いと思うのだが、恐らくはただ単に版権上の問題なんだろうと思う。このようなミもフタも無い事実の積み重ねが人生を形作るのであって、当然伝説的ロックスターであろうと何ら変わらない。多数決によって事実をも否定されてしまう人生は、本人にとって不幸以外の何物ではない。