一番寒かった場所

 「空は晴れてるのに吹雪いとる。おかしな天気や。」この場所で発せられるおっさんの言葉、時に強い説得力がある。この地域に足を踏み入れてから、確かにおかしな天気。そして、寒い。物凄く寒い。晴れているのに。
 明らかに、観光客には場違いな場所。人を喰ったディスプレイを誇るスーパー、その脇から入ると休日シャッターの閉まる薄暗い商店街、なんとなく、波長の合う場所に惹かれて半ば迷いながら、大通りを越え、阪堺電車線路をくぐり、またも同じような商店街を抜け、視界が開ける。いつの間にか雪、空には青い空。ここを左に曲がり、後は路沿い。
 公園の中は、噂通り常に人集り。街頭テレビと石舞台と焚き火と山のように積まれた薪、公園の中のおっちゃんは皆無言(のように見えた)。噂に聞く公園内を徘徊する多くのイヌ、この日見当たらなかったのは冬場という季節が為す糧の少なさからか。
 公園の外縁、路に沿って歩いていると、両脇一杯にリアカーが駐車された広めの道路。冒頭のセリフはここで私の後ろを歩いていたおっちゃんから発せられた言葉。その言葉を聞いたその瞬間、身体の外からではなく身体の芯から発せられる凍るような冷たさ。こんな寒さを経験したのは初めての経験。公園内で囂々と燃える焚き火の熱気は公園の外にまで伝わってくるのに、私にはそれが伝わうことはなくただひたすらに寒い。何かへの恐れが心肝寒からしめるというわけではない。別に緊張はしていない。冬場に訪れるのは初めてのこの場所、意識下の視覚が他者の音声によって覚醒され、また実際に妙な天気。上から見たらほぼ三角のこの公園が持つ魔力が、私の脳幹に直接作用、見た目以上の寒さを私に植え付けるのか、或いは私の直感が掴んだ何らかの警告か。とにかく寒い。
 寒さを感じながら視線はぼんやり、その先は、恐らく焚き火に当たっているおっちゃん達の方。ふと、数人がこちらを見ていることに気付く。更に何人かが焚き火からこちらへ視線を移す。ここで、自分が不用意にカメラを持ったまま歩いていたことに気付く。公園から進行方向へ、視線を変えて少し早足で歩く。三角公園を行き過ぎ、そのまま行き当たった南海電車、高架に沿った道筋は、不思議な活気に満ちている。このころには雪はやんでいた。