エクストリーム・聖火リレーを見に行くを見に行く 2

 初めての主義主張の掛け声はやはり気恥ずかしいもので、初めはあまり声を出すことが出来ない。この時、長野駅西口ホテルサンルート前はほぼ「Free Tibet」を掲げる人々で占められている。言わば「我々側」の陣地である。
この陣地は大小の道路によって隔てられ、その道路際に沿って警察官が一列に整列、図らずもこの陣地の防御壁となっている。特に長野駅までの最短ルートである駅北交差点下横断歩道は警官の用意した柵でもって簡易的なバリケードといった様相で、信号が青になる度にそこを通る一般通行人のために柵の一部が開けられているがそのうち完全にシャットアウト、しばらくこの横断歩道は使えなくなる。
 実はこの時、我々の陣地の周囲、「長野電鉄長野駅入り口周辺」「ホテル池紋前」「東急百貨店前」はほぼ完全に赤い旗で埋め尽くされており構図から言えば我々はほぼ敵に包囲されている形になる。時刻はだいた7時頃、この時点で既に圧倒的動員力の違いに差がついていることまざまざと見せつけられる。
 この頃、この場を仕切る右翼連中の一部が陣地北側、「ホテル池紋」方面に向かって展開。道路を境に対峙する相手方を盛んに挑発、一部小競り合いに発展した様子。これを境に陣地を囲む警察官も態度を硬化、ほぼ完全な壁となりその間の通行を著しく制限する措置を取る。この間、「Free Tibet」の旗を持つ人、プリントされたシャツを着るものは完全に通行を阻まれこの場から出ることが出来なくなってしまう。
 緊張高まるこの時間帯、確認できるだけで暴力沙汰は2度。一つは挑発行為の延長か、右翼活動家らしき男が相手とつかみ合いになったとも思われるのが一件。現場を直接見ていないが周囲ばらばらに散っているマスコミ連中がカメラをもって一斉に走り出した為、それとわかる。当事者と思われる人物が頬を抑えて警察になだめられている様子だけを確認。「よくやった!」恐らく仲間の掛け声。
 もう一件はその場を目の当たりにしたのだが、それだけにかなり不可解。どのようないきさつか、相手側の人員が一人陣地に紛れ込んだらしく、「このチャンコロが!」「待て!チャンコロ」とか言いながら右翼を中心に大挙してその人物に群がり、着ていたジャケットを引っ張ってとっつかまえようとしながら殴る蹴るの攻撃を加えている。私は今回の参加に当たって「何があっても暴力はいただけない」の一応の信念は持ってはいたので、敵だろうが味方だろうが、更にこの「大勢の中での」状況ということもあまり感心は出来ないこともあり、あまり意識せず「止めよう」との認識を持ってその群に急いで近づく。が同時に、冷静な判断が足にブレーキをかける。「内ゲバの方が100怖い」。そして、それに勝る「まともな思考」の通用しないことへの恐怖。「チャンコロ」は何とか逃げおおせた様子。それにしても何をやっていたの? そういえば向かい、無数の旗がはためく敵陣地(東急百貨店側)、赤い旗に紛れて「中国に干渉される筋合なし」と書かれたメッセージボードを掲げる気弱そうな青年が一人見えて相方共々バカ受け。「物凄い勇気を持った人?」「その割にはメッセージ掲げる向き間違ってない?」「日本語知らない中国人?」「いずれにしてもだまされた?」と多くの仮説が考えられるが結局は謎。彼、いろんな意味で大丈夫だったかな?
 我々(私と、私を誘ってくれた相方の計2人)がここに来たのは2ちゃんのオフ呼びかけに基づいてである。一応の予定時間、集合場所は設定されていたため、聖火発送予定時刻近づく中、このロックアウトされた状況は脱しなければと少し焦り。相方の情報収集によって「とりあえず長野駅前に応援に」との指示が出ている模様。そのためもう少しここで頑張ることに。一方敵方も見る見る間にまだまだ増える赤い国旗、往来を、歩道を、交差点を、歩道橋を、とにかく埋め尽くしていく。確かに「応援・移動」要請はこの状況に基づいた判断なのかもしれない。だが・・・。
 結局このまま「スタート予定時刻」に。途中晴れ間も見えたものの結局は崩れ模様に傾く天気の中、時に激しく降る雨を避けて、冷えた体を鼓舞するために大声を張り上げて(このころには大声張り上げることに違和感はなくなっていた)いるうちに、ふとある疑問が。「敵方が発送地を後目にここに続々集まってくるのは、我々をもここに釘付けにする為の陽動では?」。リレーの正確なルートを把握していないということもあり、このままでは目的を逸してしまう可能性もあり、我々はこの場を離れて別の場所にて「競技」の通過を待ってみることに。ひとまずこの場を離れよう。