『ファクトリー・ガール』

 ボブ・ディラン役(本人からクレームが来たため別の名前での役だけどあえて)のヘイデン・クリステンセンが似すぎていて、気持ち悪いアンディ・ウォーホルを演じるガイ・ピアーズよりイヤ。スカしたディランも気持ち悪いウォーホルも好きですけど、あくまでも実際の。
 物語は主人公イーディ・セジウィック(シエナ・ミラー)と上の二人の交流と彼女自身の家庭環境に起因する彼女が抱える闇、それら全てが途方もない葛藤となり破滅する彼女の人生を描く。
 「少しのお金と、深い愛がいっぱい欲しいのよ」とは生前の彼女の口癖だったという。誰もが認めるように彼女の人生においてほとんどこの願いが叶うことはなく、上記の言葉、ともすれば他者は望み得ることのない自らの「上流階級出身」と言うアイデンティティーを覆い隠す欺瞞と化した方便にも見える。欺瞞と言えば、したり顔で神に懺悔するウォーホルも、そのウォーホルを「資本主義の権化」として非難する「ロックスター」ディランもともすれば欺瞞だらけの存在のように写る。このような中にもしも「純粋で美しい」女性が放り込まれれば彼女がどのような末路を辿るか簡単に予想できる。もちろんあくまでも彼女が「純粋で美しい」ことが前提として。ああ、だから、私が一番印象に残ってるシーンは作中何回か登場した「イーディーが街中を走って逃げるシーン」なんだな。けど、(一応)伝記映画で、「走って逃げるシーン」が一番心に残ってるなんてちょっと悲しすぎません?