『憲兵とバラバラ死美人』

 新文芸坐の第6回奇想天外シネマテークより。事前の唐沢俊一中野貴雄河井克夫三氏によるトークショーで解説されたように原作は『のたうつ憲兵』と言う元憲兵による事件簿からとのことだが、原作の題名からして意味不明であるし、映画化された題名も当然の如く意味不明、既に新東宝VS観客の熾烈な一本勝負は始まっている。
 時は昭和12年、既に大陸で始まった戦争は泥沼の様相を見せ始め、ここ仙台市に置かれた歩兵第4連隊でも満州へ向けて殆どの兵が出払っている中、兵舎内の井戸より首と手足の切断された女性の変死体が見つかる。始め仙台管区内のみで捜査が進められ隊内のみでの解決が図られるが、事件が外部に漏れ公になるに伴って東京の憲兵司令部より応援として主人公の小坂曹長が派遣され、協力して捜査に当たるよう求められるも、縄張り意識の強い地元憲兵の思惑によりそれぞれ別個に捜査に当たることとなった。
 恐らくは事実を元にした内容ということで、マジメに見所を評すれば、憲兵らしい強引さと利にならない縄張り意識全開で怪しい捜査を続ける地元憲兵に対して、憲兵らしからぬスマートさで次第に周囲の人々にも慕われていきながら当時としては画期的とも思われる法医学・犯罪心理を絡めた独自のプロファイリング技術によって巧みに容疑者を絞っていくという主人公の活躍を鮮やかに対比させつつ、絶対的な権力機構である軍隊の影響力とそれに関連することになる事件の背景となった当時の社会における貧富の格差、軍隊内での犯罪等を浮き彫りにして暗き世相に批判を込める。といったところなのでしょうが、当然の如くこのイベントにて掛けられた映画、「さあつっこみなさい」との掛け声は唐沢さんに言われんでも十分過ぎるほど目立つ。が、そのつっこみ所がなんだか「低予算だから」とか「ただ単に洗練されてないから」とかいった、期待していた「社会的な問題に対して今よりゆるゆるだった当時の様相を背景とした」迷セリフ・迷シーンといった印象はあまりなく、その意味で少し期待外れ。事前の解説で述べられていた通り、「それぞれのシーンそのものは爆笑モノ」であるホラー映画の法則に則って、科学的な手法を重視して捜査を進めているにもかかわらず捜査が行き詰まると法医学教室で被害者の頭蓋骨を両手でもって「おまえは誰なんだ?」と大まじめに語りかけると何故か殺された女の顔がちょっとだけ浮かぶとか、「早く被害者を特定しないと(別チームの地元憲兵が挙て)拷問されている容疑者が死んでしまう」という早期解決への有り得ない動機とか、特定された犯人を追って(犯人が志願して満州に派兵されているので)満州まで行ったら現地の憲兵士官から「既に隊から逃げている、が潜伏場所は分かっている」なんじゃそりゃ? 挙げ句潜伏先の売春窟に潜伏している犯人がついこの間まで日本の軍隊にいたのに何処で調達したのかお約束の中国人阿片売りのユニホームだったり、と色々あるんだけどなんか全体的にいまいち。その理由に、恐らくはせっかくの天知茂がスゲー期待外れな役だったこともあると思う。
 でも、オーラスのシーン、犯人に手錠を掛けて、なんの余韻も残さずに即終了というのは結構好きです。あと、このポスターも良いよね。内容が全然分からず宣伝としての役割を全く果たしてないところが宣伝の妙という。こんなシーンねぇし。