『「異界神話」出版記念トークライブ』 於ロフトプラスワン

 題の如くオカルト系書籍の出版記念イベント。主客共にそっち系の人々が集う中、何と行っても目を引くのはゲストの大槻義彦早稲田大学名誉教授で、前半はオカルト否定派の代表格である大槻教授らとと肯定派の論客山口敏太郎さんらによる討論。
 実はトンデモ学者説があったり、更にはアメリカの科学力の秘密を守るため世間にアンチオカルトの思想を広めるべくエリア51から派遣されたスパイ説があったりと、「とりあえずオカルトには噛みつく人」とのイメージが先行して実際何が本業なんだかよくわからないイメージになってしまっている大槻教授。実際に話を聞いてみるとその著書の通り主張は一貫していて、所謂オカルトといわれるものの中で反論・攻撃の対象とするのは「科学的根拠の曖昧な霊能・霊視と称して他人の人生・運命をさも見極めたように振る舞う行為」で「それによって金儲けの道具とする、若しくは人や世間を不安に陥れる」ことが許せないから、というもので。ここで重要なのが「根拠がない」ということ。この根拠を明らかにするための手法としての唯一にして最大の武器が大槻教授のそもそもの職業である「科学者としての目」即ち「科学的方法」であり、その方法により理に叶わない事象は全て「事実」から排除する。ただ、大槻教授が実際に実験によって全ての類型に当てはまるオカルト的事象を明らかにしている訳ではない。まあ一つの事象に対して行われる実験がその準備も含めて多少の時間を有することを考えれば当然のことと言えば当然のことで、何よりも大槻教授が世間に広く知られるきっかけとなり、今尚その啓蒙の重要なツールとしているテレビにおいていちいちそんな実験など行わない。ただ、大槻教授は実際に実験の行われていない事象に対しても「科学的方法」の目を持って判断、その結果大部分のオカルト現象を「科学的根拠に乏しい」という事実でもって否定、否定するからには教授自身が「許せない」とする事象と同列に並べる、かくして反オカルトの急先鋒大槻教授が誕生するわけである。
 疑り深い私は、その疑り深さ故にオカルトというよくわからないことを許容して楽しむ。実は「個人的趣向」の範囲に留まっている限り、教授はオカルトを否定しない(と言うか相手にしない)。だから、テレビのイメージからする「強硬派」のイメージが実際に話を聞いていると少し和らぐ。そして、今日の相手は山口敏太郎である。テレビ局がそこら辺から集めてくる電波系のバカなオカルティスト共とはオカルトそのものに対する知識、膨大な事例、何よりも科学に対する理解が全然違う。と言うわけで、自らの考え方に基づいてオカルト的行為・事例に反論する(特にエハラとか黄色い頭の人とかはよっぽど嫌いみたい)大槻節はテレビそのまんまに舌鋒鋭いものの、「科学的根拠が得られているわけではない」が「自身で今まで行った実験でとりあえずの説明が出来ないこと」に関しては少し受け身になるのは当然で、山口さんはそこを責めるわけだ。で、そんなこんなで揺さぶりをかけながら結局、「人間が死んだ後、分子・原子レベルの物理的な意味での『霊』が残ることはあり得ない」「ただし、人間は死んで何も残さないわけではなく、生前に行った事柄、記憶を別の媒体に情報として別の人間に残すことはできる。その媒体が『別の人間の記憶』である時、例えばその人間が故人の記憶を頭の中で再生している状態を『別の人間の頭の中で故人が蘇る』と考えても良いし、その状態を『故人の霊が現れた』とするなら、『霊は存在する』」との教授の言。まあ詭弁なんだけど、たぶんバカなテレビではこれをもって「大槻教授、遂に霊の存在を認める」とか言い出すだろうな。
 この場に集まった面々、オカルト側の人は「オカルトは趣味≧生業」というどちらかと言えば「面白いから」的な考えで、一方の大槻教授は「真面目な動機」でもって「真面目な立場」でお立場上基本オカルトは論破しなければいけない(下の動画を「面白い」と観るか「おかしいとこは何処だ?」と見るかの違いね)

しかも会場ほぼアウェイという考えてみれば大分不利な状況その中で、途中すごく意固地になりながら自身の専門の知識だけでなく多く他の学説・論拠を動員して科学的根拠でもって徹底的に論破する様子は正直立派。それを裏付けする態度(旅行先の宿で必ず電話帳をチェックして「霊能者」がどのくらいいるのか調べてるとか)も立派。テレビで見るよりずっと好感は持てた。だからね、大槻さん、あなたほど頭の良い人なら「根拠なく実害ある言動」を最も広めるのは「霊能者」自身ではなく、もっと無責任に「彼らを登場させる」「テレビ」であることぐらいわかってるでしょ? 彼ら同様自ら世間に広く知られる片棒を担がせたのがテレビである以上、そこまでは言いませんか? とかちょっと意地悪なことを考えてしまった程面白いトークだった。
 誰にも挨拶しないで大槻教授がさっさと帰った後の後半は確か怪談とかやっていた。なんかフライング・フィッシュって乗れるらしい。客で来ていた多田克己さんも登場していた。山口さん、イベントの合間に鳥山石燕の解説書読んでたらしい。さすがと思った。