東京税関情報ひろばを(遊びで)訪問

 東京税関にはその仕事の広い告知のため資料館を設けており、東京税関が品川からお台場に移転した際に展示資料を再編成し、今まで同様税関の仕事の啓蒙のためお台場の合同庁舎の一画に「情報ひろば」なる名称で設けられている。かつて品川にあった頃の資料館は官僚テイスト全開の全くシャレの効かない雰囲気が最高であったらしい。その中でも異彩を放っていたのは、ワシントン条約違反で税関にて輸入が差し止められたシーラカンスの剥製で、元々いい加減な造りだったせいか取り調べの最中に腐敗が進み異臭を放ち始め、遂に持ち主が所有を放棄したという曰く付きのモノ。その後、保護動物密輸の戒めとして、また国内では大変貴重なシーラカンスの剥製標本として、税関資料館にて公開されることとなったのだが、いい加減な処理の元所々崩れかけたその姿はかなり異様な姿であるとのこと。これが見たくてはるばる東京湾内の人造埋め立て地を訪問する。
 この資料館、官庁の休庁に合わせて土日祝日はお休み。はっきり言って平日こんなとこまでこれが目的で来る客は殆どいない。私が訪れた時、館内は私の他に先客わずかに2人。なぜか中国語で会話。館内で放送される映像資料(特に「密輸」「麻薬犬」の紹介)を観賞し、後ほど紹介する密輸の際ダミーに使われた物品を撮影したりとずいぶん熱心に動き回っていた。彼等の身元など知る由もないが、この不便な場所に不便な開館日時、本来告知するべき人々に対して全くその役目を果たしてないばかりか、そもそも告知してはいけない人々を啓蒙しているのではないかとの不安を抱く。
 さて生まれ変わった情報ひろば、リニューアルに当たってより広く親しんでもらうべくマスコットキャラクターが誕生、その名を「カスタム君」と言う
由来は税関の英訳"Customs"にこれもまた税関に馴染み深い「麻薬取り締まり犬」から。ひねり全くなし。このカスタム君が八名信夫と絡むプロパガンダ映像を、他に客がいなければ何時間でも観賞することができる。八名信夫はどうやら税関のイメージキャラクターらしい。この映像作品の中で八名信夫のボケとカスタム君のツッコミで税関のお仕事をわかりやすく説明してくれるわけだが、その中で輸入禁止品目に関する説明があって、税関で輸入品(お土産)を八名信夫が出しながらその中に「偽ブランド品」「ワシントン条約に触れる動物を原材料とした加工品」が出てくるとカスタム君がつっこむ、という内容。もしもこの中で八名信夫象牙の加工品や偽ブランド時計に混じって袋詰めの粉とか黒い鉄の塊とかを土産袋から取り出して「それはダメだよ!」とカスタム君のツッコミに「いやうっかり」とか八名信夫がボケる、こんな映像作品が国費で造られていたのなら、俺はこの国に生まれたことを心底誇りに思うのに。映像は引き続き税関のお仕事を紹介。カスタム君はあの図体で尾行とかしてる
大変ね! 
 税関は海と空、日本が外国と接する出入り口が活躍の場所。海と空とで世界に接する場所が違ってくるのは当然で、場所が違えばその仕事の内容も異なる。「情報ひろば」には、とにかく税関がかかわる仕事に関して概要を映像で説明するだけでなく、その仕事毎の説明映像が存在する。ただの映像だけではなく模型にホログラムを浮かび上がらせたりなかなか凝った造りの資料もあり、その量・質がかなり充実。さすが財務省管轄だけあって随分と金を掛けてやがる様子がよく解る。そして、その多くの資料でカスタム君大活躍。ところが資料毎にカスタム君の声が違う。こんな狭い空間を造るに当たっても清々しいまでの縦割り、このわかりやすさに却って気分良い。
 税関にかかわる多くの資料の内、やはりその白眉はその成果を最も誇らしげに掲げる密輸摘発の様子とその手口のサンプルである。手荷物に紛らせるといった初歩から商品の仕入れに見せかけて二重底に仕掛ける不溶性のカプセルに分けて飲み込む等、その証拠写真もまた面白く同時に「戦後の密輸品の傾向」とかもの資料もあって勉強になる。中でも「アメリカのマジシャンが覚醒剤をボールに隠して持ってきた」「女性が体腔内に該品を隠匿して密輸入」という微妙な言い回しにウケた。下はその密輸グッズ、腹を割かれて粉入り袋を露出されたライオンのぬいぐるみ、ふてぶてしげな表情がたまらない

 ライオンで思い出して、本来のお目当ての剥製である。実は現在ここにシーラカンスの剥製はない。あまりに惨めったらしいその醜態に、茨城の博物館に修復を依頼したらしく、剥製は無事修復、そのまま博物館に貸し出してここには一年の内11月の下旬に一時的に帰ってくるだけなのだという。写真で見たシーラカンスのあのインパクトを残してこそ法遵守の涵養に役立てそうなモノだが、貸し出してここにないという当たり、目的の中途半端さが窺える。シーラカンスはなくとも、日本の水際で捕まったワシントン条約には内緒動物がその他わらわらとガラスケースに収められ、その種類と生々しさにそれなりの迫力を憶える。それにしても、剥製の中所謂「猛獣」を中央に集め、わざわざ向かい合わせて開けんでもええ口を開けさせ互いに威嚇する展示は明らかに意識してると思う。
展示の目的と方針の不一致甚だしいがもういい加減慣れる。ただ、シーラカンスは観たいと思うのでまた来なければいけない。
 結局のところ当初の目的は果たせなかったわけだが、いろいろと面白い物見させていただきまた勉強にもなり楽しかった。とはいっても、やはりこの資料館の意義は全く果たされていないことに税金払ってる身として違和感を憶えないわけでない。国の金で税関が手前味噌な仕事の自慢をするためにあるというのが妥当な見方だろう。平日しか開いてないのだから誰も押すはずがないカスタム君のスタンプをノートに押し、アンケートに「休日も開けろ」と書いてここを後にする。他にはたぶん置いてないと思うのでパンフレットの類は大量に持ち帰る。その中に他の資料館、東京都水道局の資料館の紹介があって複数ある資料館でスタンプラリーをやってる旨の告知。その中でかく資料館共通、東京都水道局のマスコットキャラクターが「水滴くん」と言う名前の手足顔の付いた滴であることに本日最大の衝撃を受けた。