『座頭市千両首』

 これを観に来た人はやっぱ、馬上の富三郎お兄ちゃん(今作では「城健三朗」)にムチでもって首縛られて荒野を引きずり回される勝新を観るために来たのかな? 勝新太郎は当然主役。なので、決して侮るわけではないが「シリーズだから他でも観れるし」感が強いし、奥村兄弟競演の本作どーしても若山富三郎の方に目がいく。そんなお兄ちゃんは今作では「悪代官と結託して農民からの上納金をかっさらう博徒に雇われた浪人・仙場十四郎」の役。当然、私の悪役好きの性分も手伝って、初登場時から醸し出すお兄ちゃんの悪役の横顔に、それに見合った悪逆非道振りと凄い殺陣を期待してもうドキドキしてしまう。そんな初仕事は上納金横取りの実行犯。「ぐはははー!」とか言って大笑いしながら片手にムチ、片手に刀と変則的な得物で器用な殺陣。これは市に対抗するために変則的にしたのか、いずれにこの得物が最後の対決の印象的なシーンを演出するので最後まで要注意。・・・ああもうこの初登場シーン、イメージをぶち壊しにするのを承知で言ってしまおう。「グフ初登場時とリンクした*1」。
 物語は、千両の上納金横取りの一味に疑われた座頭市が自分の濡れ衣を晴らすため、もう一つ自身が過去に犯した罪の償いのため、奪われた上納金の行方を探す。途中有名な「国定忠治赤城山を下りる」のエピソードに市の活躍を絡ませ、また敵方では最強の使い手である仙場十四郎との幾度かの鍔迫り合いの後、上納金を取り返した後例の最終決戦に至る。主役と脇役という役柄である以上、市と仙場が直接絡むシーンは何れも仙場(お兄ちゃん)がやり込められ、それに対するお兄ちゃんの憤怒の念を盛んに燃やし態度・言質共に対抗心を剥き出しにしていく姿は楽しい。セリフなんかも「おい、座頭!」とかいきなり怒鳴ったり、「ミミズってのはな、盲(めくら)なんだ」とか意地悪そうに曰ったりととてもクール。なんかもう、こっちにとってみれば映画の役柄を離れてしまって兄弟の確執*2のように錯覚してしまってるのが楽しいんだよね。だから、最後の兄弟対決のシーンが物凄く面白い(勝新が馬で引き吊り回されるシーンだけでなく、その後馬から下りて後の斬り合い、最後に兄弟向かい合い、そのまま若山が倒れるシーンの素晴らしさは素直に感動)。そしてオーラス、勝った座頭市がまだ首に巻かれたまま残っているムチの一部を断ち切るシーンにまたも「兄弟対決」としての有り得ない想像上の確執の影が見えて、結局今となっては「奥村兄弟を観るための映画」であるのだなぁとの印象が一番強く残った。

*1:「勝とは違うのだよ!、カツとは!」→このシーンで流れた脳内セリフ

*2:終生仲が良かったと言われるこの兄弟の間ではそんな事実は無いと思うけど