『御用牙 鬼の半蔵やわ肌小判』

 三作目ともなると、例の半蔵の特殊なトレーニングのシーンはお約束らしく、伊丹半蔵(勝新太郎)初登場シーンは風呂場。地蔵殴りのシーンは上役の大西孫兵衛(西村晃)とコントのような掛け合いをしながらと、全体的にわかりやすい笑わせ要素の多いのが本作。
 手下の岡っ引き、鬼火(草野大悟)マムシ(蟹江敬三)がお堀端で見たという女の幽霊の話しに興味を持った半蔵は幽霊に化けていた女をいつもの拷問で責め、番役人の手引きで行われている御金蔵破りの事実を暴くが、そこに見えたのは生活の窮乏故に犯罪にも手を染めざるを得ない下級武士達の姿であった。翌日、上役の孫兵衛と共に金蔵破り阻止の手柄を老中堀田備中守(名和宏)に賞されるがそこは半蔵でいつもの反骨精神満載、政道の歪みから困窮に陥っている武士達の救済を訴えるが昔ながらの古い武士道の考えを固守する備中守は聞く耳を持たない。不機嫌の内に奉行所から帰ろうとする備中守に直訴する男が一人、それは元堀田家侍医・杉野玄庵(高橋悦史)で、国防のための大砲製造の必須を訴えたが頑固な主君には理解されず暇乞いに、自身病を病み余命幾ばくもない身から命を懸けて訴え出たというモノ。ここでも備中守は聞く耳を持たず、孫兵衛・半蔵に捕縛を命じるがこの男に興味を持った半蔵は自分の屋敷(の秘密の二階)に匿って彼に大砲造りをさせてみることに。一方上司の孫兵衛には「奴は逃げた」と報告、申し開きのために備中守宅を訪れるとそこには仕官を願う大勢の浪人の姿、その中に半蔵は旧友武井兵助(山内明)の姿を見つける。彼も仕官口の願いのため備中守宅に通い、その一方で苦しい生活のため金貸しを営む石山検校(小池朝雄)に莫大な借金を背負っている。その石山検校は備中守の妻・弓(緑魔子)に琴の師範として取り入っており、定期的に琴の会と称して自宅に弓ら大名の奥方を招いているが、それは欲求不満気味な奥方たちの慰めに乱交パーティーを催すためであった。
 鬼火・マムシが「ダンナもいよいよおかしくなったか(じゃあ、今まではセーフだったのかよ!)」とか言い出したりお約束の「腕めくって見せてみろい!」のシーンで二人とも「へい、島へ戻らせていただきます」と泣きを入れたりと、側近のこの二人をして付いていけなくさせてしまうくらいの半蔵の暴走振り、当然上役の孫兵衛なんか「蛇」の異名はどこへ行ったか、彼と半蔵が登場するシーンはすべて漫才になっていて完全に笑うとこ状態。面白いから良いけど。半蔵の暴走は悪事に対しての鋭い嗅覚の裏返し、一応その行動の意図は最後までに大体掴める。けど、普段は刀と鎖十手持ったレイプマンで、いきなり「今日からうちは鍛冶屋だ!(これに対する反論「近所迷惑ですよ」が泣かせる)」とか言い出してふいご吹かせられたり、で何が出来ると思えば出てきたのが大砲だったりと、こんな人の下にいれば不安でしょうがないです。この人の上役に当たる人も「言うことを全く聞かない」とか基本的な問題以前にいろんな意味で不安で仕方ないでしょう。上司役西村晃の「(褒美でもらった金子を分けてもらって)おまえも良いとこあるな!」「おまえ腹を切るか! そうか良かった!」「そうだ、おまえ今晩夜逃げしろ!」とかこれも泣かせるセリフの数々。毎回半蔵の暴走振りに圧倒されるシリーズだが、本作においては半蔵の他に印象的な暴走シーンがあり、それは金貸しも営む石山検校が配下の浪人(成田三樹夫)に執拗な取り立てを命じ、で登場したのがめくら*1軍団。こいつらが金を貸してる浪人の元に大挙して押し寄せ「金返せ〜!」と大騒ぎ。白杖持って戸を叩く、破れ障子から盲いた目でもって覗き込んで、障子破って顔を突っ込んで罵るの迫真に・・・笑いたくても笑うのが憚られるのがちょっとヤバイ。
 シリーズお約束の見せ場である半蔵の女への責め場、露出は少し控え気味。その分なのかは定かでないが、ここでも笑かしどころはかなり知恵を絞っていて、大胆不敵にも白昼老中のお屋敷に忍び入る半蔵、傍らで琴を演奏する目の見えない検校しかいないのを良いことに床に臥している老中の奥方を後ろから・・・。「あ〜!もっとぉ!」「やめないでぇ〜」とかの喘ぎに琴を弾いてる検校が「それ程までに(琴の演奏を)お喜びいただけるとは光栄に御座ります」との返しに爆笑する。この場面で、御金蔵破りの黒幕たる石山検校と老中堀田備中守の結託の場面を掴むことになるのだが、それと半蔵が奥方を犯していることにあんま関係なく、「犯してるとこにたまたま悪事の相談が始まった」ように見えるのも可笑しい。
 社会の矛盾は今作でのテーマの一つ。長く続いた太平の世に幕藩体制が揺らぎ、その影響は幕府を支える下級武士達に経済的困窮を強い、それが原因の堕落、一方でその問題に対して全く無策のままの幕府首脳、更には西洋列強のアジア侵略の影がちらつき幕府だけでなく日本国危急存亡の時が迫る中、その問題に気付いている者は逆に虐げられている。矛盾溢れる世の中で自身考える正義のために腕を振る半蔵の視点はそんな部分、特に自身と近い身分*2である下級武士達に注がれる。更には半蔵自身凄腕の剣の使い手でありながら、浪人として燻る友人や迫害される西洋知識を持つ医者の目を通して、これからの武を育むに個人の剣の腕ではなく学問・最先端の知識に基づいた技術の構築に因るモノとなりつつあることも理解しつつある。そんな半蔵だけでなく世情を巡る複雑な背景の中で完成した「大砲」を持って玄庵と共に堀田備中守の元に赴く半蔵。遂に半蔵も江戸市中から更に大きな国防という舞台に移してと今後のスケールアップを大きく期待・・・と思わせといてやったのは「堀田備中守の行列に向かっていきなり大砲をぶっ放す玄庵を黙認」。なんだよ、国の将来を憂えて大砲造ったんじゃないのかよ! 結局面白そうだから手を貸しただけなのかよ! でさんざっぱら大砲をぶちかまし、備中守を演ずる名和宏を爆発コントのオチ状態にした後、後ろから現れた半蔵に玄庵は斬られ、遺体は大砲諸共爆破、玄庵はこれで良かったのか? 全然国の将来のこと考えてねぇじゃん。
 いや、このダンナの下にはとてもついていけねぇ。

*1:この言葉が一番適切。誤解を承知で

*2:武士としては身分が低くて金貸しにも侮られる「同心」の半蔵が何故あんなカラクリ満載の仕置き部屋・トレーニングルームまで完備のお屋敷に住んでいるかにはあえてツッコミは入れない