『子連れ狼 死に風に向う乳母車』

 乳母車大活躍! シリーズの他作を観ているワケではないので、大五郎の乗る乳母車が戦闘その他のシーンでどの程度活躍するのがお約束なのか解らんけど、本作では拝一刀(若山富三郎)の武器の一部にもなり大活躍。
 冒頭で、一刀・大五郎親子が渡し船に乗るシーン。乳母車の同伴お断りにつき乗船の際は「船尾に括り付けて引っ張る」。船頭も「なるほど!」と唸る上手い利用法、ちゃんと防水加工済みの乳母車に大五郎は乗ったまま船は川を渡る。なるほどじゃねぇよ、危ねぇだろ。せめて大五郎は舟に乗せろよ。まあ、大五郎が乳母車に乗ったまま川を渡るお陰で今回のエピソードが始まるワケだが。その直後、柳生の追追っ手を見事な居合いでバッサリ、先程のオカシなシーンは全てチャラ。
 と言うわけで本作は、なんか「妙?」なシーンと「格好良い!」シーンが交互に現れて物語が進んでいく印象。「武士道」と言う名の大義が世の変化と共に歪み、純粋に武士としての矜持を保つ手段ではなく世を治めるための道具となる中、その「真の武士道」を最も知る2人の武士、拝一刀と孫村官兵衛(加藤剛)が一方は瞑府摩道に生きる闇の刺客として、一方は食い詰め者の集まりと化している「渡り徒士」として世を生きる矛盾、死に場所と生き場所を求めて激突する2人の対決を最大の山場として、それに至る道のりを子連れ狼の戦いを中心に描かれる。
 今回の刺客の標的は「主君の乱心を幕府に密告し、取り潰しに追いやった挙げ句自身はその地の代官に納まった」元藩側用人役猿渡玄蕃(山形勲)。依頼主は以前藩主切腹の際、乱心故に切腹の場で暴れる藩主に誇り高き死を遂げさせるために自らの片腕を犠牲にして(当時公儀介錯人であった)一刀に斬られた元藩の重臣、三浦帯刀(浜村純)で、それを引き合わせた縁が旅の途中で女郎に売られる娘を一刀が身を挺して助けた事による、と複雑な奇縁の果てと言った感じ。「娘を救う」エピソードがまた面白くて、弾みから女衒を殺してしまった娘、女衒集団である忘八者を束ねる酉蔵(浜木綿子)としては忘八者の掟から娘に落とし前を付けさせなければいけない。掟を知りながらも娘持つ位牌に自らの運命変転のきっかけとなった罠を思い出し一刀は自身が代わりに受ける事を申し出る・・・。この落とし前の折檻が結構スゴイ。何がスゴイかって裸にされた若山富三郎が逆さ吊りにされて水桶に何度も突っ込まされる。これに平然と耐える一刀を見て酉蔵、「次は『ぶりぶり』だ!」。『ぶりぶり』ってなんだ? 逆さに吊したままの一刀を忘八者達が大勢で周囲を囲んで「ぶ〜りぶり〜のぶ〜りぶり♪ぶ〜りぶり〜のぶ〜りぶり♪」とか囃しながら棒でぶっ叩いてグルグルグルグル回す回す。周りが楽しそうなのが更にヤバイ。で、一刀死ななかったので、酉蔵の父親三浦帯刀と晴れて対面、刺客依頼のお運び、死ななかったから良かったモノの。
 最後の最後に用意された加藤剛との果たし合いの前に、刺客依頼の目的を果たすべく、加勢含め総勢200人からの武士団と拝一刀との対決、眉一つ動かさず乳母車を押して死地に向かう一刀の姿、見ていた酉蔵が思わず色を為すほど。敵は飛び道具(弓矢・鉄砲)も持っていて対する一刀、まず乳母車の胴で矢を防ぎ、その後乳母車に仕込んだ連発銃で飛び道具隊全滅。更に乳母車に仕込んだ斬馬刀を取り出して敵陣へ切り込み、徒士だろうと馬上だろうと向かう敵をバッサバッサ次々に・・・。「乳母車兵器」の登場にここでも一瞬唖然、直後繰り広げられる若山富三郎の斬馬刀→胴太丸へと繋ぐ縦横無尽の見事な殺陣に先程の「?」は全て無かったことになる。そう言えば本作、一刀が対する飛び道具の避け方が凝って(?)いて、まず酉蔵一味との対決の際酉蔵の放った短筒を手元の笄を刺して畳を起こして盾にして避ける*1、も一つ草野大悟が演ずる猿渡側近で両手短筒の名手・朽木に対しては、「大五郎に溺れた振りをさせ、得物を持たずに川に入った朽木を斬る*2」、さすが水鵬流、策略をもって得意の水面に敵を誘い込んだワケだ*3。刺客の標的で、200人の中から最後に残った猿渡玄蕃の得物も短筒で、一刀にあっさり斬らせず結構抵抗したのが意外で良かったかも。悪役にも花持たせなきゃね。
 今作ではその間に黒幕の裏柳生の連中は逃げちゃう。で大トリに加藤剛登場。武士としての死に場所を求める孫村官兵衛と冥府摩道ど真ん中の一刀の正々堂々の勝負、破れた官兵衛に対し相応しい死に方を用意した一刀は、再び大五郎と共に冥府摩道の道のりを歩むのだった、のシーンで加藤剛が生首!
 素晴らしい若山富三郎の殺陣を褒めちぎっていればよいモノを・・・どうも、最近真っ直ぐ映画を観れない。

*1:その後畳を投げて攻撃、この畳が何枚も真っ直ぐビュンビュン飛んできて「畳がこんなに飛ぶのかよ!」と爆笑したが、浜木綿子の凛々しさに無かったことになる

*2:このシーン、草野大悟がすごく良いおじさんに見える

*3:違うと思う