『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』

 あっ、しっかりしてる。何がかと言えば、映画の最初の方、「度を過ぎて役になりきる」ロバート・ダウニー・Jr.が全裸でベランダで飲んだくれているシーン。股間と一緒に中指立てた左手にもしっかりとモザイクがかかっている。こいつらマジだ。
 あちこちこの映画に関する感想を読んでみると、「笑えない」事への否定的感想が目に付く。「笑えない」ことに腹が立つ、とまで行かなくともどちらかと言えば否定的感想を持ってしまうのは、「この映画はコメディ」との思いこみを持って行くからに他ならないからで、何故まだ観てもいないこの映画をコメディ映画と決めつけてしまうのかと言えばどうやらこの映画の予告を流すテレビCMからの影響であるらしい。幸いにして、家にテレビ受信機の無い、おまけにここ最近名画座ばっかり行っていて新作に関する予告編に接する機会が極端に少なかった私の場合、この映画について事前に知ることの出来る殆ど唯一の情報源と言えばはてなアンテナで更新を逃さずチェックしているちょっとスレてる系の映画感想ブログくらいのモンで、要するにこの映画=コメディとするほどの素養が足りなかっただけのことである。まあ、出演者チェックする機会はあったので、それにも関わらずこの映画をコメディと認識しない鈍感さもどうかと思うが、とにかくそういワケで、この映画へのコメディとしての刷り込みがなかったことで、この映画をより広い視点から観ることができたかそれともその反対だったかは解らない。私は少なくとも、この映画を観るに当たって「笑い」を中心に据えなかったおかげで、火器を持つ犯罪集団に対して「演技」と言う武器でもって挑もうというこの上なき役者バカへの限りなき賞賛と、どんな相手であろうと観客からの「賞賛」という麻薬から逃れることの出来ない役者冥利の表現にちょっとした感動と空恐ろしさを感じ、そして少し皮肉っぽく笑った。そしてあとは、そこかしこに顔を出す「アメリカ」。映画が当たろうがコケようが、要は金が入れば何でも良いのも、自家用ジェット機のオーナーより友情を取るのも、数万キロ離れた場所同士での会議上遠隔操作でぶん殴ったり、やはり数万キロ離れたジャングルの中からダイレクトに身代金要求するのも、いつでもどこでも興が乗ればアイポッドから流れるヒップホップの旋律に乗って踊っているのも、端的なアメリカがそこかしこに散りばめられれば、まあ確かに違和感だらけ、それが可笑しい。
 そもそも、その笑いに何らかの違和感を感じ、それを面白く無い理由とするのであれば、物語の冒頭、役者バカ(もしくはバカ役者)が全裸で突き立てる中指に股間と同様の価値を与えモザイクをかけるという我々とは明らかに何かが違うという違和感に、早々に気付いて劇場を立ち去るべきであると思う。今夜そんなあなたのハートには、何が残りましたか?