『死者の書』

 私と同年代の方々には、多少なりとも「川本喜八郎トラウマ」はあると思う。心になんの準備もなく手を伸ばしたテレビのスイッチ、その結果突然飛び込んできた人形呂布のソース顔は死ぬまで忘れまい。
 で、その川本人形が動き回る「死者の書」。内容ほぼ原作に忠実ながら、原作の、特に旧仮名遣いを交えた本文が紡ぎ出す重厚な印象より、美しい人形と人形に合わせたと思われるやや稚拙とも言えなくもないアニメーションとが却って平城の幽玄なイメージに重きを置かれていて、人物・背景・セリフ回しが非常に解り易い印象の『人形劇 三国志』『平家物語』より、短文ながら原作「名人伝」のそのまた原典とする老荘思想の深みに視点に置いて描かれた「不射之射」に近い感じ。「川本喜八郎」の人形劇という時点で、私にとって面白くないわけはない。事実、現実とは程遠い姿をする人形達の姿は、権謀のみが支配した平城の都の事実を覆い隠すのに充分で、現実でない所にこそ、「当麻曼陀羅」の伝説じみた縁起に却ってより現実的な幻想を喚起させる。