『人妻集団暴行致死事件』

 昔から農業で生計を立てる人の多かった埼玉県吉川町・三郷町、一方で首都圏近郊の住宅供給地としての一面から、開通したばかりの武蔵野線沿線を中心に建設ラッシュが続き昔ながらの農村風景も変わりつつあった。そんな場所で生まれ育った昭三(古尾谷康雄(雅人))善作(酒井昭)礼次(深見博)の三人は中学を出た後転職を繰り返して暮らすその日暮らしに近い日々、唯一と言って良い目的は女とヤルこと。近所では変人で通っている泰造(室田日出男)は嘗ては浅草で名を馳せた渡世人で、一方その道に似合わぬ人の良さから今では足を洗って後妻の枝美子(黒沢のり子)と共に川の側で川魚を捕ったり養鶏をしたりして生計を立てている。ひょんなことから知り合った三人の若者と泰造、泰造は若い頃の自身の無軌道振りを三人の若者に重ねシンパシーを感じ何かと面倒を見るように。対して三人は泰造を大将と呼んで慕いながらも、泰造宅で垣間見る影のある女性、枝美子に対して抱く劣情。彼女が嘗て淫売であったという前身もあり若者達の欲望は抑え難く、ある夜女に肩すかし食った腹いせと酔った勢いで、前後不覚に泥酔して不在の泰造宅に押し掛ける。
 豪放、その一方で物凄く自虐的。泰造の持つギャップの切なさが強く印象に残る室田日出男が素晴らしいです。その「切なさ」の頂点は言うまでもなく死んだ枝美子を風呂場で洗うシーン。「こんなに傷ついて・・・今綺麗にしてやるから・・・」と呟きながら目を開けたままの彼女(の死体)を洗う念入り様、黒沢のり子登場時から彼女が醸し出す影に観者も確かに惹かれるのだけれども、その彼女が最も美しいと感じるのが初登場シーンでも、笑顔で野良仕事しているシーンでも、愛されカラんでるシーンでもなく、この死体となった後のシーンなのだから皮肉*1。その後、彼女は相手を抱いた形に死後硬直、目を開けたまま布団に横たえる・・・「まだ彼女から目を背けることを許してはくれない」演出、この無言の熱演を破るのはやはり泰造の醸し出す切なさで*2、以降豪放な泰造は影を潜め、いよいよ自虐の度合いを深めた泰造は静かに破滅に向かうが、そこにはもはや切なさと言えるような叙情はない。
 全然関係ないが、この舞台となった地域・場所が私が住んでた場所に近いのでほぼロケ地特定、またまた映画と関係ない棄景へのノスタルジーが沸いてくる*3一方で、映画ラスト*4の物凄い後味の悪さになんだかフィクションと現実とが混濁するようになりちょっと「うえっ」って気持ち悪くもなる。が、評判通り(?)スゴイ映画でこの日のいろんな事の中から最優先して観た甲斐は充分にありました。

*1:一番ぐっときたのが「足の指の股まで念入りに洗っているところのアップ」だったけど、これが本当に良いシーンだったからなのか私自身の性的嗜好に因るモノかよくわからん

*2:死体を目の前に呆けている泰造の元に枝美子の母親が登場「おまえが殺したんじゃ!」「可愛そうに、目ぐらい閉じさせてやればよいのに」となじる、それでも呆けて枝美子を見続ける、シーン

*3:嘗ての中川の様子とか、40分に一本しか来ない武蔵野線とか

*4:執行猶予受けた昭三が、判決後同棲始めた彼女と笑顔で白髭橋を渡っていく