『愛欲の罠』

 ある「組織」の幹部高川(大和屋竺)に雇われる星(荒戸源次郎)は依頼を受ければ沈着冷静、正確無比の腕を誇る殺し屋で雇い主の高川からの依頼に忠実に答えるため日頃の鍛錬を怠らない。依頼成功後に必ず営まれる愛人眉子(絵沢萌子)との濃厚な愛欲は星の唯一と言って良い慰めでありそんな眉子を愛して止まない。ある日高川から組織の中での高川の上役に当たる男の暗殺の指令が、仕事の方はいつもの通りちゃんとこなしたモノの、暗殺の現場に眉子を連れて行ったことで高川から強くなじられた上に逃亡を命じられる。星自身は逃亡に乗り気ではないものの、ある日眉子は家から消えてしまう。その後、高川から新たな仕事の指令が・・・「眉子を殺せ!」。
 伝説の映画らしい。主演が荒戸源次郎、と言う時点で凄いのは何となくわかる。で、中身はと言えばこれが更に想像を絶するスゴさ。荒戸源次郎が制作として初めて関わった映画、と言うことでストーリーの繋げ方等のぎこちなさ大目に見るとしても、登場人物とか、その行動とか、セリフとか、更には物語の世界観が、「?」なのである。少し調べてみると、出演者の多くが当時荒戸が主催していた「天象儀館」というアングラ劇団のメンバーとのことなので、作品全体にアングラ色を漂わせようという意図があるであろうことはよく解る。が、次から次に出てくるいろんな仕掛けが少しずつ常識からずれていって最後にはもう・・・。観ないとこのスゴさはとても伝わらない。というわけで以下あらすじ兼ねてツッコミ所をダラダラと列挙します。
 まず、作中「組織」とだけでとうとう正式な組織名が出てこなかった「組織」の実体がよくわからん。日本の他にアメリカに「支社」があり、金や麻薬の密輸・密売を行っているらしく、構成員に殺し屋が何人もいる。で、アメリカ支社の副ボスにインド人らしき格好をした護衛が付いていたので相当に国際的な組織であることは間違いない。で、その組織の日本の本部はどっかの温泉地近くの山の中、物語最後で実は日本の組織とアメリカの組織は対立しているのが明らかに。内情もなかなか複雑、一筋縄でいかないらしい。そして恐るべきはその構成員・・・主人公の星、実は組織幹部高川が組織乗っ取りの切り札として密かに育て上げた直属の殺し屋で、抜群の腕を持つモノの切り札としての立場から組織では顔も名も知られていない、なのに眉子の殺しに成功しただけで何故かいきなり組織内の「殺し屋の星(スター)」になって他の殺し屋からの羨望の的になる。高川の眉子殺しの依頼のセリフがこれまた・・・「傷が少ないように小粒の弾丸でハートを撃ってやれ」・・・かっけぇー。確かに100メートルほど離れた位置から拳銃で完璧に心臓に命中させられるんだから星の腕は大したモノ。その星の普段の暇つぶしは「家の窓から弾の入ってないライフルのスコープで近所のゴルフ場を覗いて撃つマネ*1」と日頃の鍛錬を怠らない賜でしょう。ただ、彼程度の殺し屋で驚いてはイケナイ。高川の組織への裏切り、その手先となった星・眉子の元へ彼など足元にも及ばない凄腕の殺し屋を組織は派遣する。その名も「西郷とマリオ」・・・オルゴールの音色と共に現れた彼らの決めセリフは「セカイイチノコロシヤハダレダー!」ってかおまえ人形じゃん*2。彼らが登場したシーン、本当に「何が起きたか解らない」。つまり、気付いたら「全裸の絵沢萌子が巨大なデク人形みたいな奴と腹話術人形と踊って」いて、最後には「股にトイレ詰まり用のラバーカップ突っ込まれて死ん」でる。本当にワケ解らないんだよー。この変態共の攻撃を辛くも逃れ星が次に対峙する殺し屋、こいつら殺しに行った相手の家のトイレでクソしている・・・緊張感無さ過ぎだろ、これ、で当然の如くクソしている間に返り討ち、組織に属する殺し屋、質の幅がデカ過ぎる・・・。
 追われる身の星にとって身を隠す場所は山奥の温泉のちょんの間しかない(なぜ?)、追われる者の悲劇、自信喪失した星のナニはピクリともせずせっかく潜伏するちょんの間においても全くその特典を生かし切れない。そんな星についに組織の魔の手が・・・実は組織の本部はそのちょんの間のある温泉地と目と鼻の先にあった(だから何故!)。で、新たな刺客は彼に空気銃での勝負を挑む・・・「人間の後頭部から間脳を撃てばたとえ空気銃程度の威力であっても即死、神経の作用で死体は笑った表情になる」そうな。「そんなモン気軽にゲーセンに置くな!」とかここまで来たらここはもう突っ込む所ではない。で、温泉地を巻き込んで大の大人が空気銃での撃ち合いを始める。死闘(?)の末、勝利した星の足下にはにやついた死相を浮かべた死体が累々と・・・。この勝利に自身を取り戻した星はアレまで復活、星に好意を抱いたちょんの間の女・夢子と始まる昼夜とも果てることのない愛欲・・・遣り手婆の説得で渋々他の客の元に赴く夢子を待っていると、辺りに聴いたことのあるオルゴールの音色が。あまりに戻りの遅い夢子*3の所に遣り手婆を伴って訪れるとそこには変わり果てた夢子の姿*4、「気持ち悪い人形を連れた客だったのよ〜!」とか、つうかババァそんな客断れ!*5
 勇気と自信を取り戻し、復讐心に燃える星はとうとう自ら組織の本拠地に乗り込むことに。この時携えているライフルが先程の空気銃と同じに見えるのはご愛敬。ところが本拠地には敵らしき者は誰もいない。とは言え油断せず慎重に行動する星、本拠地内にある温室内の熱帯樹林を避けて真ん中の道を匍匐前進で進む。って、そんなとこで蹲ってたら普通ハチの巣だろ、林の中を進めよ、とか言わない。そしてついに現れた最強の殺し屋西郷とマリオ。その口から語られる衝撃の事実・・・「アメリカの組織が日本に上陸して、日本の組織の配下達はみんなそっちに寝返って残ってるのはオレとオマエとボスだけ」組織結束力無さ過ぎ!小学生のケンカかよ! 
 「コノサキニボスハイル、ダガオマエハココデタオレルノダ!」・・・遂に宿敵を倒した星は、熱帯園の先の劇場に一人座るボスと対峙。「お前がボスか?」「うん」「死ね!」バーン。えぇ〜!!こんだけ?つーか犯罪組織のボスの返事が「うん」ってなんだよ「うん」って・・・。最後に荒戸源次郎、カメラに向かって一礼・・・誰に?


 12月31日に再度上映するようです。絶対観て損はないっす。シネマヴェーラ渋谷っす。是非本年鑑賞映画の大トリに。

*1:スコープで狙いを定めて「バーン、当たった。バーン、死んだ。バーン、また死んだ・・・」のセリフも格好良すぎる・・・

*2:前の回上映中に館内のロビーで待っていると上映中の劇場から超甲高い奇声が何度も響く。「随分と激しいカラミがあるんだな」と思っていたら何のことはない、声の正体はコイツだった

*3:つっても「十分で戻って来い!」からして無茶なんですけど

*4:今度刺さっているのは花。それを見て星が一言「血の花か・・・」何じゃそりゃ?

*5:夢子が人形に「責められる」シーンあり。あまりに太くて苦しむ夢子の上にのしかかる大男の腰を腹話術人形が押したり引いたりしてもう何がなんだか・・・