『暴れん坊将軍 「江戸壊滅の危機!すい星激突の恐怖」』

 いつものように遠眼鏡で夜空を覗いていた将軍・徳川吉宗(松平健)はふと、異様に輝きまるで接近してくるかのような天体を見つける。ただならぬ怪異の気配を感じた吉宗は在野の天文学者、西川如見(笹野高史)を召し出し、更に大目付・黒瀬日向守(西沢利明)に調査を命じる。進んだ西洋の天文学に通じた如見は、近い内に江戸にすい星が衝突する恐れを予見するが、黒瀬日向守はその報告を握りつぶす。一方、江戸市中では神川秀麻呂(堀内正美)を筆頭とする天狗党と名乗る浪人達の集団が如見の説を奉じ盛んに江戸町民にすい星衝突の危機を煽る。その危機を逃れるには天狗党の配る燈明に火を灯しひたすら祈れば良いとのこと。我先にと燈明を得るため天狗党に群がる町民達、その様子をお忍びで覗き見た吉宗はナニやら深遠な陰謀の気配を感ずる。
 単純作業ばかりやらされる左遷先の職場、遠くに未だにブラウン管のぶっといテレビが遠くに見えて、何故か必ずと言って良いほど暴れん坊将軍の再放送をやっている。単純作業といってもやることはたかが知れていて、適当に目を盗んで適当な時間適当に過ごすことも時々可能。この日、たまたま「暴れん坊将軍」の放映時間にこの適当な時間が重なったので、作業をしながら何となく観ていると、なんと伝説の「江戸壊滅の〜」がやっている! 今のところ左遷先で起こった一番良いこと。
 さて、このお話、今更ながら知る人ぞ知る、時代劇とSFの一大コラボレーションとしてテレビ史に残るメイ作。飯時に観たら噴くこと確実。時代劇なのに、最初のシーンは火を噴くすい星・・・*1この彗星を巡って起こる混乱に乗じて起こされる陰謀がこれまたな内容で、天狗党が配っていた「御燈明」、実は中に火薬が仕込まれていて、燈明の芯に火を灯すと中の火薬が爆発する、要はダイナマイトみたいなモノ。これを騙された信心深い江戸の町人達が仏壇の前でもって火を付けるもんだから江戸の町のあちこちでドッカンバッカンの爆発騒ぎ*2。で、この大混乱の中悪人共は何をするのかというと、「騒ぎに紛れて商家に押し入り金を盗む」という、仕掛けのスケールのデカさに比して大変スケールの小さい悪事。この悪事を取り仕切る堀内正美が不逞の浪人っぽく長髪・オールバックでしゃべり方からして明らかに怪しいのにみんなして騙されてんのが凄く良い。
 大目付役、西沢利明は何故すい星衝突の危機を握りつぶしたかというと、この天狗党と密かに結託していたからで、それを嗅ぎ付けた徳田新之助こと将軍吉宗の活躍で悪人共は一網打尽になるが、この回の場合これで終わらない。そう、あのすい星はどうした! 心配御無用、西川如見の活躍ですい星の落下位置は正確無比に予測、八王子近くの大和田村に落ちる報告を受けた吉宗はめ組の連中を動員して村民の避難を計る。かくして危機一髪、避難し終わった彼らの目の前ですい星は火を噴きながら大地に落下、西川如見と上様の活躍で一人の犠牲者も出さずにすんだとさ、普通彗星落下が可視できる位置にいたら死ぬけど。それにしても、笹野高史が演じている西川如見、物腰が大仰でどこか軽妙、これが物凄く胡散臭い。使用している天文測定機器がハレーの肖像に描かれたモノと一緒なのに如見が和服だから変だし、何よりすい星が物凄くでかく見えるくらい近づいているのに平気で冷静に観察、「うむ、落下するのは大和田村!」スゲー、というかあんたも死ぬし、普通。
 徳川吉宗と西川如見の交流は史実で、将軍吉宗の学問好きと先見性を表すエピソードの一つであるけど、それをここまで話をふくらませてもうムチャクチャの域まで高めてしまった脚本の想像力は驚愕に値する。いやー観て良かった。絶対観て損はないです。つーかお前、ちゃんと仕事しろ。

*1:造型がいい加減なので人魂みたいなヤツ

*2:つーか、火を付ける前に誰も気付かんかったんか?