『白い南風』

 定年で教授職を退いた首藤(佐分利信)の娘美仁子(池内淳子)は、元父の教え子で現在助手として大学で働く三田村(山下洵二)に昔から想いを寄せている。三田村も大学時代より美仁子を想っているがはっきりとは言えないでいるうちに、下宿先の娘の千賀子(峯京子)から強いアプローチを受ける。三田村にその気はないが、自身のパトロンでもある実力者の娘とあってはっきりと断れないでいるうちに彼らが結婚するとの噂は美仁子にも伝わる。そんな傷心の美仁子は三田村の同窓生の小柴(佐藤慶)より結婚の申し出を受ける。三田村への思いを断ち難い美仁子は小柴のプロポーズに戸惑うも、正式に三田村と千賀子の婚約が発表されるたことで強いショックを受け、自棄になった勢いで小柴と間違いを冒すに至り、小柴の申し出を受け入れようとするが。

 ひでぇ役だ〜、佐藤慶。登場時、二枚目の友人に遅れを取る少し不遇そうな青年といった感じが段々とその本性を表していき・・・、といった佐藤慶の王道を行く魅力たっぷりの悪役。「段々」と言っても紳士的な態度は前半ほんの15分程度、自棄になってる美仁子役の池内淳子にお酒を勧めるシーンは、「これからどんな悪巧みが待っているのだろう?」と期待を持た不安を抱かせ、以降の豹変振りに「ああやっぱり」と一安心す憤るのです。
 物語の核は、ひたすら可哀想な救われない道をひた走るまさに打ってつけの池内淳子を見ることでその何倍もブルーな気分になり、松竹映画名物、「(美仁子の妹、慎子役の)倍賞千恵子カワイイ!」とかどーでも良くなる。男優陣も本来準主役的な立場であるはずの三田村*1が凄く煮え切らない、主体性のない役なもんで結果的に池内淳子を虐げる事に一役買ってる。と言うか小娘の慎子にまでなじられる情けない役。なもんで、同じ虐げるなら主体的に意識的に虐げている小柴を演じる佐藤慶に逆立ちしたって敵わない。更には美仁子の父親役の佐分利信、家族を思い、優しく、時に厳しいお得意の父親役を完璧にこなして、これも結果的に美仁子の立場をなくして追いつめる、と、美仁子を巡る男性陣は悲惨としか言えない。男性陣の印象がこんな体たらくだからどうやったって美仁子をフォロー出来ない。で、加速度的に不幸になっていく美仁子の悲惨さが際立つと言う結果に。佐分利信のお父さん役、上手で好きなんだけど。そういえば西村晃も出てました。主にパシリ役で。その挙げ句、佐藤慶に騙され会社を乗っ取られる。悪いヤツだなぁ〜。けどこの悪事は蛇足だなぁ〜。こんな描写なくても本作でのキングオブ悪はぶっちぎりで佐藤慶ですから。対する西村晃の仕返しも中途半端でいただけない。
 「ブルジョア的な上から目線」がこの作品の中で、佐藤慶が演じている悪人としてのバックグランドとなっている。前半で池内淳子を口説く辺り、表情の中にまだ彼女の心にあるライバルへの劣等感が自身と一緒に含包されている表情は素晴らしい。以降(本性を表して)、一貫して常に上から目線であり続ける態度、これまた上手。やはり、男性の中では佐藤慶が一番印象に残ってしまうな。彼を観に来たとか悪役が好きとか彼自身が好きとかそーいう以前に。かと言って主役の池内淳子の魅力まで食ってしまうと言うと決してそうではなく、男性陣は佐藤慶も含めてひたすら彼女が不幸になっていく片棒を担ぎ続ける役なのだから、全ての登場人物の中で誰が最も印象深かったかと言えば池内淳子であること揺らがない。彼女の見せる女性としての、ひたすらに自己罰的な後悔と悲嘆の描写は最も印象に残り、そして上手い。もう一度繰り返すがこの映画、ひたすら不幸になっていく彼女の演技を観る映画ということで全く間違いはない。

*1:役を演ずる山下洵二、他の出演作も含めてこの人のことはよく知らない