『関東破門状』

 渡世の義理から自分の属する浜野組の叔父貴分を刺し殺した寺田(渡哲也)は、懲罰として自分の組を解散させられ長野、上諏訪にシマを持つ中桐(佐藤慶)の元に預かりの身となる。渡世の義理を重んじ寺田の男気を知る中桐は寺田の懲罰会議の際唯一厳罰に反対した男で、自分のところに来た寺田を食客として遇す。一方、寺田を陥れることを目論んだ浜野組幹部の長谷川(山本麟一)は寺田を庇う中桐が気に食わず、同じ上諏訪にシマを持つ弟分の神崎(曽根晴美)を使い二人を陥れようとする。そんな中、元寺田組の子分達が寺田を慕い上諏訪に現れる。たまたま居合わせた喫茶店で神崎の子分達とトラブルになるが、これを撃退する。中桐は彼らをも歓迎し店を持たせカタギの仕事をする手助けをするが、長谷川、神崎はこれを利用して中桐組を罠にはめようとする・・・。

 いい役だ〜、佐藤慶。この作品の佐藤慶は渡世の義理を重んじる昔ながらのヤクザの親分。故に、本家の鼻つまみ者を身を挺して守る、金集めが下手なのに借金してまで食客のために店を持たせる、それ故敵につけ込まれる隙を作る、と普段の佐藤慶の役所なら陰謀巡らせそのスキに乗じて尽く付け込むであろうための罠に、本作ではその佐藤慶が尽くハマって、それでも渡哲也を守って、とある意味とても新鮮。けど、格好良いんだなこれが。佐藤慶目的で来ている、ということを割り引いても、主役の渡哲也が食われんばかりの男っぷりと不器用っぷりに拍手をあげたい。子分役で渡哲也を強くサポートして命を助ける役の長谷川明男のセリフ「親分はこうと決めたら筋を曲げることはねぇ」だって。くぅ〜、格好良すぎて涙が出そう。実際、お互いの命が危ういことを悟った中で「兄弟」と呼びかけ渡哲也と義兄弟の杯を交わすシーンは最高潮に感動。何度も言うけど佐藤慶の役。私、ヤクザ映画そんなに好きでもないのにねぇ。そしてその佐藤慶を陥れる役柄には山麟に曽根晴美佐藤慶を陥れるのだから、このクラスでないと釣り合いが取れない?(ホメてます)
 その反動で*1主役の渡哲也の印象がとても薄くなってしまった。子分や弱き者やヒロインのために体張ってボコられてそれでも敵をビビらすといった任侠映画のセオリーは踏んでるのですがそれがなんか全然勢いに繋がらない。佐藤慶目線でなく、主役の渡哲也目線で物語を見てみても、要所要所で登場して、主役のハズの渡哲也の強力な盾になってる佐藤慶の存在が却って大きすぎる気がする。言うなれば美味しいところをかっさらっているのが渡哲也でなく佐藤慶という構図になっていて、映画としてこれはどうかと。故に、その巨大な存在だった佐藤慶が退場した後、その復讐に走る(復讐せざるをえない)渡哲也の存在を急激に大きくして最後の復讐劇の迫力を増して、と考えたのかもしれないけど、正直ノレない。渡哲也が最後、新宿の路上からラスボスの山麟を追いつめ映画館でトドメを差すシーンも、「何の映画がかかっているのかな?」という方が気になった位。その為、本家(上部組織)に逆らって圧倒的人数の襲撃を受けて佐藤慶が殺されるシーンで、佐藤慶の殺陣に目が行きながら同時に「ここで佐藤慶が死ななければ多分治まりが付かない」と余計なことを物凄く心配してしまった。いずれにしても、あの表情、あの目線、あの声が、ヒーロー側の役として使われることに何の遜色無い、むしろそちら側こそが本来の使われ方なのではないかと思ってしまう*2、「唯一、無二」の「俳優 佐藤慶」を強く再認識してしまう作品だった。*3

*1:抗争モノのヤクザ映画がそんなに好きでないというのもあるのでしょうが

*2:実際、好きな役者ならどんな役でもどんなときでもヒーローだ

*3:主役の渡哲也の名誉のために一応言っておきます 今日私は「俳優 佐藤慶」を観に来たのです