『やくざ番外地』

 東京23区を傘下に収め日の出の勢いを誇るヤクザ組織・野見組は次なる標的として成長著しい新興都市、多摩市に目を付ける。そこは地元ヤクザの高瀬組が昔からシマとする場所で、野見組の動きに対し高瀬組は抵抗する構えを見せる。対して野見組は組長側近の大幹部村木(丹波哲郎)を抜擢し調絡の指揮を執らす。村木の作戦とは高瀬組と敵対する地元愚連隊を祭り上げてヤクザ組織に仕立て上げ高瀬組と抗争させた挙げ句疲弊するのを狙おうというのだ。一方の高瀬組はこの動きに対して徹底抗戦の構えを見せ、高瀬組二代目組長(清水将夫)の元、組代貸し塚田(佐藤慶)を中心に一致団結する。実は村木と塚田は嘗て杯を交わし義兄弟の契りを結んだ仲であった。

 だめだ・・・上映中殆ど笑いを堪えるの必死だった・・・。まず丹波哲郎の肩書き「大幹部」、特撮ヒーローモノの悪の組織みたいでいきなり吹きそうになる。丹波哲郎がこの文言、字幕で紹介されると多摩市はおろか世界征服を狙っているように感じてしまうんだなぁ、何故か*1。彼の立てる作戦から自分は黒幕に徹してなきゃいけなさそうなのに、敵地でウロウロして顔割れまくり、なんか序盤、彼が愚連隊を組織して祭り上げた「血生会」に顔出す度にボコられた組員が包帯巻いているのが異様に可笑しい。
 「素人衆の目は誤魔化せても俺の目は誤魔化せやしねぇぜ」本作の佐藤慶は義兄弟の丹波哲郎との友情に重きを置きながらも義理のある高瀬組の先頭に立って戦おうというヤクザとしての苦悩を抱える善役*2。ただし小組織の悲哀、彼の属する高瀬組は丹波哲郎の暗躍の前に苦戦を強いられ遂には組長が殺されてしまう。組長の遺体を前にもうすぐ刑期を終え帰ってくる組長の息子が帰ってくるまで一致団結を誓う佐藤慶はあくまでも渡世の義理を重んじる。そんな彼らの待つ次期組長ってどんな人? で登場するのが何故か長谷川明男・・・どう見ても、敵の丹波哲郎をして「組長として申し分ない」若者とは思えません! で、こいつをム所にたたき込んだのが亡き父親でその仕打ちを深く恨んでいるってお前らどういう親子なんだ? 善役の佐藤慶に狡猾な抜け目無さを期待してはいけないのでしょうが、彼が一人で血生会の賭場に乗り込んで囮になっている内に他の組員で賭場を囲んで一網打尽にする作戦、自分はどうするか考えなかったのか? 挙げ句組長の小指と引き替えに解放・・・どう考えたってこうするでしょ? その場を収めた丹波哲郎はこの小指をホルマリン漬けにして何故か自宅へ持って帰る。それでもって一緒に住んでるカタギの妹(山本陽子)がそれを見つけて愛想尽かせて出て行く。当たり前だ! それを引き留めて必死で説得する丹波哲郎のセリフも「俺がヤクザだからお前と一緒に暮らさなければいけないんだ」とか手前勝手すぎて理屈もメチャクチャ。もうこの一連のシーンで我慢が出来なくなって爆笑! いくら何でも脇甘すぎでしょ?
 最初からこんなんだったんであとはどうツッコミ所を探そうというところばかりに目が行って、ヤクザ映画観ている緊張感とは程遠いまま観賞終わる。佐藤慶の最後の魅せ場、丹波哲郎との直接対決もあっけなさ過ぎて「そう来たか・・・」以上の感想は浮かばず。そしてラスト、主人公丹波哲郎の最後の魅せ場も「長ドス持って殴り込んだのに初っ端何故発砲?」とかこれも素直にノれなかった。
 そう言えば、端役だけど濃い存在感を発していた役者が一人、血生会組長の沢地役。何となく覚えがあるけど名前が出ないので調べたらこの人が永山一夫。この後、役者業と別のところで物凄い(悲惨な)経歴を持つことになる人だったということ初めて知る。ちょっと興味が湧いたのでこれから要注意。

*1:シノギ第一の近代的ヤクザ」対「博徒の香りを残すローカルヤクザ」の構図を際立たせるための肩書きなんでしょうけど

*2:この特集上映中の「ヤクザモノ」に限って、今のところ佐藤慶は何故か2:1で善役の方が多い ?