『大乱歩展』於神奈川県立近代文学館
いつも拝見させていただいているid:ricohetさんのブログで展覧会の紹介アリ*1、矢も楯もたまらず無理に予定組んで出かけてきました。風の強い日にカップルだらけ横浜港の見える丘公園の長い坂をうつむきながら登った甲斐がありました。最終日に行ったのでもう終わってんじゃんとか言わずまあお付き合いの程を。
やっぱり「乱歩」を見に来る人達は一抹の「猟奇」を胸に期待して行くのでしょうか? ご存じの通り江戸川乱歩コト作家平井太郎氏、至って真面目で常識的なお人柄。だからこそあんなに魅力ある作品への創作に繋がったと言えましょうが、そんな平井氏のお蔵の中からちょいと拝借してきたモノを並べてみて乱歩さんの頭の構造をほんのちょっとみなさんにお目にかけてやるよ明智君by二十面相みたいな、そんな展示でした。
圧巻はなんと言っても膨大な数の「自分史的書き物」の数々。将来名を成す事など知りようもない時代の細かな生活の記録から、推理小説界のオピニオンとして名実共に認められる存在となった後々まで、とにかく蔵書から手紙から身の回りの記録やら、募集と秘蔵と整理の繰り返しを絶えず行い続けた結果のこの数々の貴重な資料に感動すら憶える。やはり基本は真面目な人だったんだなぁと。そしてやはりその真面目さ故に密かに天井裏に忍び込んで真面目に徘徊したりとかしてたんだと妙に納得。そう思い、展示の中盤で大きなスペースを割いている昭和初期の猟奇エログロ路線作品の数々、「D坂」の文字に不思議に心躍ってしまった。そう言えば、小説家になる前に開いていた本屋の名前が「D坂三人書房」と言うのか。今だったらコレで一本書けてしまいそうな程刺激的な名前・・・。も一つ小説家以外の生業として下宿屋兼旅館「緑館」の経営も行っていたって面白かった。乱歩氏が旅館を経営してるんだって! ゾクゾクするね! なんて風評が良く立たなかったモノだ(大誤解)*2
文士らしく、同時代の文士達との交流を示す書簡のやりとりも残っている。同じジャンルの作家からジャンルは異なれど人間的に似たようなジャンルに括られそうな作家など。ここで、乱歩氏の几帳面さ故の悲劇が・・・詩人、萩原朔太郎との交流を示す、彼からのお手紙「所々珍しき所をご案内下されたこと」「未知の猟奇趣味を」「今度友人の稲垣君を」二人でドコ行ったんですか? しかも追伸に「性は自分に関して秘密主義を守り、友人達にも一切の自己を隠してゐる性分ですから、成るべく他人にはご内密に・・・」 朔太郎先生! 残念ながら後世にバレバレです。全ては乱歩先生の几帳面さのせいです!
後半の展示で、江戸川乱歩宅の蔵の内部写真と蔵書の分類を検分。これだけの数の蔵書・・・本好きにはとても素晴らしいと思う。こんな蔵の中に閉じ込められたなら、乱歩の登場人物でなくとも自分の本性に忠実になりそうだ。最後半に乱歩趣味の一端を垣間見る芳年の血みどろ絵が数点展示されていましたが、私としてはこの膨大な蔵書を頭中に乗せた乱歩の真面目さへ底知れぬグロテスクさと感嘆を思い、もはや血みどろ絵如きどうでも良い気分になっていた。やっぱり、是非一度「緑館」に泊まってみたいと思う。座敷童ならぬ一寸法師の影くらいは踏めるような気がする。
*1:→http://d.hatena.ne.jp/ricohet/20091107/p1
*2:自ら保存してあった旅館のポスターも展示「室内電話」「閑静にして便利」「美室にして低廉」恐らく乱歩自らがしたためたコピー。良い事尽くしのお部屋で一体何されるんだろう?(だから誤解だって!)