へびくうひとびと

 冒頭は法事のシーンです。

 以下、長いものが出てくる場面があり、また見る人が見るとちょっと苦手な場面、もしくは動物愛護を独自に拡大解釈して企業とかにタカる自称エコな人たちがヨダレを垂らして喜びそうな場面が出てきますのであらかじめご注意を。 
 場所は群馬県太田市(旧新田郡藪塚本町)にあります財団法人蛇族学術研究所管理の『ジャパンスネークセンター』と云う長い方の爬虫類がらみの事件が国内で起こると必ずと言ってよい程登場する有名な蛇専門の動物園です。ヘビ専門の動物園での法事ですから供養の対象は当然この場所で実験・研究の貴い犠牲となった、或いは飼育の過程で不幸にも亡くなられてしまったヘビさん達動物です。

 この日、この有名なヘビ動物園で一年に一回行われるという「白蛇観音供養祭」並びに各イベントが行われると聞いたので一も二もなく駆けつけようと思ったところ、諸般の事情により到着したのは昼過ぎ頃で、私としても、また恐らく施設としても祭の大本命と捉えているこの法要は既に始まっておりまして、私は遅れての参加となります。と言っても別に招待されたわけでもなく参列は勝手にしているだけですが。それにしても仏事とはなんて心ときめくのでしょう。別に相手がヘビさんだからと言うのではなく、日常の延長線上に突然現れた非日常の、身に纏った日常を拭い去れぬまま否応に始まる非日常の居心地の悪さが奇妙に心地良いのです。とは言っても正直、自身の直接間接関係ある方の仏事ならこうもいかないでしょうから、ヘビさん方に感謝です。勿論私とて無益な殺生の多々心当たりある身ですし山野闊歩の折、足下這い回るにょろにょろに足首噛まれた際こちら由来の血清のお世話になら無いとも限りませんことですし、本日こちらで心の底から供養回向を図ること、決して偽りとはなりません。

 仏事はその名の通り「白蛇観音」云う一画で行われています。思いっきり露天なので天気がよくてよござんした。こちらは常日頃より貴い犠牲となったヘビ達への感謝と供養の気持ちを捧げる目的で昭和40年代に建てられたとのことです。実験・捕食の対象であろうと、否、だからこそ感謝の念を忘れない日本の伝統は素敵です。

 本来は導師(僧侶)の入場によって場の非日常化が一気に進むのですが私が行った時には既に読経が始まっていまして、おヘビの供養でもやはり人間の坊主なのですねとかお経が蛇語でないですねとか坊主が振り向くと目はらんらんと輝き口からは長い舌がにょにょろとまんが日本昔話のように、などと不謹慎なコトは毛程も感じようがない穏やかな上州晴れ(?
)の空の下。

 ボーズが人間だったことで安心すると次に気になるのはお供え物。きっとネズミとかスズメとかヒヨコとかネコとかが所狭しと三方に載って、いるわけではなく各種生のお野菜、お饅頭、食べるワケではないでしょうがヘビ革のお財布等、ヘビの鉱物ナマグサモノは徹底的に排除。それと薬酒メーカーの陶陶酒製薬酒がずらっと並んで、財団さんとつながりのある業者さんの一端が垣間見えて興味深い。
 つながりと云えば大事なのは地元との関係。読経の後に始まった来賓ご焼香では次々読み出される地元政治家のお歴々。ある意味主催者が最も気を遣う時を経てお次の一般ご焼香で。
 明らかに部外者の自分も焼香勧められて参加。来た甲斐があって、ヘビさん安らかに。
 そして導師の法話でウチの御宗旨と同じ(曹洞宗)コトを知る。私自身が家の墓に入るコトは間違ってもないと思うがヘビさん、せめて涅槃で、もしくは総持寺永平寺で会おう。
 ご焼香までさせて頂くという期待以上の体験を得て大満足&大殊勝の心洗われた気持ちのまま園内見学ができそうです。やはり仏事は楽しい。めでたしめでたし。

 式典終わりの方で、会場横の山の向こう、つまりセンターが誇る数千匹規模の飼育量を誇るヘビさん方のいる方でなにやら大声と歓声が聞こえる。本日「白蛇観音供養祭」と云っても仏事そのものは興味のない普通の家族連れのようなお客さんにはあまり関係のあるイベントでないのはセンターの方も十分御理解のようで、「ヘビと遊ぼう」とか「採毒実験」とか「毒飛ばし実験」とか子供ウケするようなイベントが盛り沢山の一日で、そんなイベントの一つが向こうの方で始まったようです。一方で早くもセンター内一回りし終わり早々にセンターを後にする家族連れの悪態がこの会場、出口の近くなので否応なしに聞こえてくる。そりゃあ感想は個人の勝手ですが粛々と仏事が営まれているそばでその下品な悪態を大声で宣う情緒教育はどうかと思うよ? と言う一幕の一方明らかに関係者でも無さそうな一般客なのに式の最初から最後まで家族みんなで殊勝の面持ちで参列している家族とか、きっと両家の子供は互いに絶対にわかり合うことはないのだろうな、なんてことを思いながらまず訪れたのはリクガメの柵。

 目視する限り二匹の大きなカメが向き合ってぼーっとしているのをこちらもぼーっと眺める、他のお客さんはイベントが気になるらしく更にヘビではないカメはここではあまり人気がないのか辺りに人もいなく、この場、なんとなく時間が止まってぼー。

 ああこのままでは、と云うコトで泣く泣くカメの視線を振り切り*1、本日二つめの目的のヘビ料理を堪能するため園内売店二階にある食堂へ向かう途中

 カメさんとヘビさんが共に仲良く、つまり玄武ですなこの看板は。

 玄武はともかく、園内諸処に立てられたこの看板のセンス、私は大好きです。

 ちょっと道草食いましたがお目当ての食堂を訪れると

 ゴジラメカゴジラが占拠していました、のではなくてこの壁の向こうで先程の法要のご招待客の皆様がお食事の最中でした。ちなみに食堂、お食事のお席が「一般」コーナーと「蛇」コーナーとに壁で仕切られておりまして、ふつーの家族連れが「太田は焼きそばが名物だ−」とかふつーにお食事をしている最中お隣で突然ヘビを捌きだして生血の満ちたグラスとかぞーもつとかそんなモンがふんだんに盛られたお皿がお隣席に置かれる喜劇を事前に防ぐための努力がされておりますのでご安心を。更についでに両者を仕切る壁沿いに並べられたゴジラだのカメラだの会社を問わない特撮怪獣フィギアは10年程前は下の売店で5万とかとんでもない値段で売られていたのを私は知っている。

 ともかくヘビは法事客が帰るまでお預けです。丁度その間食堂前の広場で「太田神楽」の演し物があるとのこと。演目も爬虫類つながりの「八岐大蛇」と云うコトで面白そうなので見物することにしました。写真は売店売り物のへび。どんな場所に置いても絵になるヘビはきっと偉大。

 「どんどこどんどこどんこどこどこどこ〜・・・ ぴ〜ひゃら・・・」お神楽が始まりました。へび(オロチ)の運動量ハンパねぇです。すんげぇがんばってます。
 
 けどヒーローはスサノオ

 煙まで舞ってえらい騒ぎになってます。

 お神楽が終わるとお待ちかねのお食事です。メニューに書かれた料理、素材は大きく二系統に別れてまして「マムシ」と「シマヘビ」になります。お料理する素材の違いとしてマムシは比較的小さい分量は少なめ、ただし丸ごと面影を留めたまま骨までイケると野趣溢れる「ヘビ食ってんなぁ」という楽しみが得られる一方、シマヘビの場合ガタイの大きい分量は取れるモノの骨は硬くて食えないため切り身で出てくるため、いきなり出されてもそれがヘビと気付かないというのは少し欠点かもしれません。

 その「何の素材かワカンネ」と云う事態を避けるため、お客様の目の前でヘビをなんかするところをお見せするためたぶんヘビをなんかするためのなんかの道具がカウンター奥にぶら下がっています。たぶんあれはヘビ用になんかするための調理器具だと思いますが具体的にはどうやって使うのでしょうか? それは注文することですぐに判ります。今の時期旬は「シマヘビ」でオススメ云うことなので、「シマヘビのフルコース(竹)」を頼みますと。

 早速イキの良い素材を奥から持ってきて素早く

 板前さんの実に見事な手つきで

 あっという間に取り出されたシマヘビの心臓・肝、それをワインを少し混ぜた生き血に入れて食前酒代わりにぐいっと。お味は・・・何か柔らかいモノ通り過ぎてく喉越し。臓物生で噛むと苦いので、また時間を経ると固まりますので躊躇せず、素早く、一気が基本です。調理の過程を見せることも含めて、のっけからこの業、強烈に命を頂いているのだという自覚を促す食前酒、頂かないわけにはいきません。
 
 旬な7年モノのシマヘビ、塩焼きとタレ焼きと選べますが私的オススメはよりそざいを堪能できる塩焼きだと思います。見ての通り調理されてしまった後は長いのの原形を留めていませんので「珍しいモノを食ってる」という違和感は全くありません。ヘビの肉は脂肪分のあまりないさっぱりとした弾力のある食感。のんべいさんなら酒の肴にいくらでもいけそうな感じですし、ご飯のおかずにも充分いけると思います。

 と云うワケでサービスのマムシ酒。普段酒なんか飲まないので70度なんか大丈夫かと心配しましたがどうしてどうして意外と飲み易く、飲んだ後腹からカーって来る感じ、それですぐに抜けていく。「執念深い」などヘビのイメージ、少なくともマムシ酒には当てはまらない。

 そうこうしているウチに別のお客さんが注文した、今度はマムシを捌く板前さん、相変わらず手早く、見事に捌いていきます。

 食材のヘビは増え過ぎた園内飼育のヘビを間引いて流用と思っていたのですが、意外に全て「買ってきた」そうです。食べられるくらいの大きさになるまでヘビを育てるのは結構大変で、それまでにかかる食費その他費用を換算すると食べてしまうのはとても不経済と云うことで食材ヘビは業者が取って来た野生のヘビを購入しているとのことです。するとヘビを扱う「ヘビ屋」がいるというコトになるワケですね。サンカでしょうか? サンカが腰に変な刀ぶら下げて自ら編んだ竹カゴにヘビを入れて持ってくる姿をなんとなく想像してしまいますが、実際は北海道で見たオヤジみたいのが*2実態でしょう。

 長いのでお腹を満たし、せっかく白蛇観音祭に参列して貯めた御利益貯金を全て使い果たした感もありますが、残りの時間せめて園内飼育・展示中のヘビさん方を巡礼気取って回ることで懺悔の代わりとしましょう。それでまず最初にの巡礼先は。

 かえる。虚無的な目つきが印象的。そしてその次は

 ワニガメ。10分ほど観察していましたがワニガメさんはこの格好で微動だにせず。シュール且つ生き物の辛抱強さを垣間見るひととき。

 さて、「ながいもの」を見に来たのですから愛らしい子ヘビたちを

 子どもはみんな活発・・・
 既に親譲りの鮮やかな肌

 この表情はツボです

 はじめましてこんにちわ

 一方でめんどくさがり屋のお子さまも。

 マムシは子沢山。

 壁には所狭しと貼られた新聞等ヘビに関する記事・記録。けど東スポはねぇと思うが、これに関しての説・見解が立派な研究所としての役割なのに。

 次に訪れた資料館には生きてるヘビの展示は皆無。その代わり気合いの入った剥製にホルマリン漬けや骨格標本。ヘビの骨格はその体型が示す通り大変神秘に満ちていますし、剥製の、特に何らかのコンセプトを意図して作られたと思しきモノなどすごくがんばってなかなかの出来ではないかと

 そーいう「コンセプト」中の白眉は「ツチノコ」の模型。こちらのスネークセンター、未だUMAの扱いから脱することのない幻のヘビ「ツチノコ」を捕獲の対象として、また研究の対象として尋常でない力の入れ様を持つこと、垣間見る最大の展示がこちら

 居ればいいなぁ。本来なら既に剛田武氏によって発見され日本全国の野山に普通に見られるようになりペット化もされ、その内深刻な噛害が発生して・・・と云うはずなのですがなかなかそうはならない。僕たちが幼い頃見た未来はどこに消えたんだ! きっと僕たちにはジャイアンが必要なんだ! ジャイア〜ン。
 
 展示ばかり見ていると油断して踏みそうになるコレはとぐろを巻いたヘビで決して似て非なるものではありませんが一応のご注意を。

 さて、標本と模型とでいささか生のヘビが恋しくなってたと頃でお次の建物に向かうと出迎えてくれるのは

 コイツら。
 恐らく園内でもっともナゾのコンセプトを秘める展示物。この半端なスペース、本当にどうしようもなかったんだろうなぁ

 有名どころにはこのように簡単な解説が付くモノの

 こちらは存在意義を失ったかの如く放置

 君たち何とか言ってやりなさい

 それはそうとこの起立の姿勢がなかなかイイ味出してます

 言っておきますがこの建物の真価は2階にではなく1階にあります。2階なんて飾りです。偉い人には(以下略)
 1階の目玉は「ニシキヘビ*3を首に巻いて写真を撮ろう」みたいなヤツ。ヘビ触りたいし首どころか又に巻いて顔なめられて頬ずりしたいくらいだけど、いい歳したオッサンが無愛想な表情でそんなコトしても仕方ないでしょ、と云うワケでひたすら展示ケース内の動物観察。コレは有名なカミツキガメ。あまり噛み付きそうにない。

 こちらグリーンが美しすぎるが結構獰猛でキケンらしい

 出ました、「押収ヘビ」

 体は美しいのに・・・

 面相は一癖も二癖もありそうな、西村晃のような面構え

 ところでさっきから背後で一定の間を置いて「がったんがったん」音が聞こえて、何かと思って振り向けば機械仕掛けのコブラが一定時間経つと段々前に迫ってきてがったんがったん。どっかの子どもが怖がって泣いていた。なんなんだろ、これ?

 お次はお待ちかね、巨大ヘビの館。巨大なのでみんな動くの億劫なのかまきぐそなのは仕方がない

 一方でこんなアクティブなヤツも。

 そして巻きグソは巻きグソの美しさ、玉のような肌に虚ろな目つきに惚れ惚れ

 惚れ惚れ

 惚れ惚れ

 可愛い・・・

 ところでこの巨大ヘビ館の入り口近くから先程からずっとにゃあにゃあネコの鳴き声が。ネコと言えばとにかくヘビいじめが好き、普段ならネコのやることに口を出すことなど絶対にないのだがこの時ばかりはちょっと心配に。イイのか?

 気を取り直して最後に訪れたのは毒ヘビ館で

 壁一面に貼られた毒ヘビ咬傷後の写真と解説を前に各種コブラやハブ等名うての毒ヘビたちが

 首を広げないと小さい頭に大きなお目々が意外に可愛い顔したキングコブラ、ガラスぎりぎりに指を近づけると反応して追おうとするのがまた可愛い

 コイツもコブラ。何やら水道のホースにご執着のようでそっち向いたまま動かない。この妄執振りがネコに通じてまたカワイイ。

 可愛いだけじゃないのよとここらはおどろおどろ系でしょうか? 「毒ヘビでござい」と云う三角形頭がポイントですな。

 結局日が暮れるまでヘビばっかみてましたが、正直時間が足りずまだまだ見たり無い。もっと見たい。けどまあ本日供養に参列は出来たしヘビは食えたりで満足ではありました。夕焼けはきっとスネークセンターからでなくすぐ裏側の三日月村からの眺めの方がそれらしいのでしょうがそれはまあ、私以外にもうお客の姿はありませんでした。

 一日中ヘビに囲まれて、長いモノ好きには夢のような場所、同時に血清の確保という社会背的責務を負いながらも所謂「動物園」として、人集めのための色々努力をしているジャパンスネークセンター、長いモノ好きでない方でもきっと長いモノに対する見方が変わる?
(公式サイト)http://www.snake-center.com/

*1:ウソです。そもそもカメはヒトに視線を向けない

*2:http://d.hatena.ne.jp/sans-tetes/20090924

*3:「都合によりボアの場合アリ」との但し書き。一般人にはボアだろうがニシキヘビだろうがそう大差ないと思うがこのこだわりが専門施設としての矜持なのでしょう。それともバカ客にでも訴えられたのか?