工場の明かりがとても綺麗ね鶴見線

 翌日の大腸検査を控えて、朝から横浜まで向かうのが面倒臭かった私は中華街内にあるアヤシイ宿で部屋を取ったものの、元々ここらの雰囲気は自分のような地味な根暗な夏至生まれの人間にとても合うはずはなく、宿で体を休めるコトもそこそこに向かった先は憧れの鶴見線、愛しの国道駅へ向かうべく国道駅最寄り駅の花月園前駅まで駅に最寄りてどゆことやねん東海道沿いのゴチャゴチャした中を切り裂くように走っている京浜急行線でした。


 夜にこの駅で降りたのは初めてのことでして、駅そばから延びている長い長い踏切が上がるのを誰かが待っている夜の風景は非常に新鮮でした。鶴見線はここからちょっと先で東海道線京浜急行線と東日本屈指の鉄道大動脈を偉そうに跨って南の方へ逸れていくので、そのちょっと先にある国道駅なんか目をつぶってでもいけるだろうとタカを括って、どうせなら国道15号側からではなくその更に向こう側の旧東海道に出てそこから国道駅に向かおう、そう思って東海道線の踏切バリに長い時間を待たされた花月園前駅入り口の国道15号線沿い横断歩道を渡ると、その先には暗闇の中

 迷路のような路地裏に迷い込み、すぐその先に横たえているであろうタカを括っていた旧東海道の通りは影も形も窺えず。家々の路地の間に工場出てきて真っ直ぐに道さえ探すの困難だわこのまま夜っぴいてこの路地から抜け出せないかもしれない恐怖と戦いながらやっと旧東海道の通りに着いた時、すぐそばだと思っていた国道駅は遙か遠く、何となく街灯が一部途切れている辺りがそうだろうと心許ない目印としてしか認識できませんでした。

 近づく毎に言いも知れない期待と不安が心に立ちこめる国道駅の魔力は夜の闇という援軍を得てますます深まっております。なんだか何も考えずに節電節電の言ってることがただの思考停止と云うことに気付かない昨今に於いて元々ライトアップとはほど遠い国道駅

 日曜夜という時間なので国道下ガードの店なんか当然どこも空いてないでしょう思ったら本当にその通りでしたこの調子ならやはり人なんかもいないだろうと思っていたら案外にそうでもなく、降車客がそこそこおりましてガードの上の方でガタンゴトンなんか電車が到着するとパラパラと無言で乗客が降りてきます。国道駅少々ナメてましたすいません。

 ナメてたと云えばガード下に並ぶ店舗、住宅、前回来た時既に大部分が閉鎖、立ち入り禁の憂き目に会っていていよいよこれはマズイあ、国道駅ガード下もおしまいかなと心配しまして、それ以前にこちらに並ぶスペース「住居」とするに正しいモノなのか大変に疑問に思っていたのですがその疑問を融解する証拠発見。

並びの一角に掲げられた表札のお隣にこちらガード下の使用許可証、しっかりと「昭和62年から昭和82年まで」の期間が書かれています。これで胸のつかえが取れましたよかったよかった・・・ちょっと待て! どうもこの中ではこの間まで昭和が続いていた様子でして、時間が止まっているのかそれとも我々よりずっと先に進んでいるのかよく解らないさすが国道駅、ちなみに現在こちらのお宅にどちら様かお住まいでいられるか不明です。この裏辺りにあってナゾの小路を抜けて行くことの出来るナゾの畑へはこの時間さすがに怖くて行けませんでした。

 お住まいと言えばこちら国道15号側にありますステキな看板が印象的な不動産業を営んでいたとおぼしきお宅、今でもお住まいと思しき住民の方がこちらのドアを出入りされるの初めてお目にかかりました。もしかして小和田駅のMさん並にレアな状況に行き会ったのかもしれませんね。お騒がせして本当にすいませんこの場を借りて謝罪します。

 「バタバタバタ・・・」あちこち写真を撮っているといきなりハトが舞い降りる。おめー鳥目のクセに何ムリしてんだこのタコ聖☆お兄さんの一コマかよこのボケとか散々悪態をつきながら撮影です。それにしてもなんの警告だったんでしょうか?間もなく死ぬのでしょうか?

 「ガチャン!」鳥を撮影していると今度は国道15号側入口でなにやら金属音。見ると若いおねえさんが自転車で入口の所にある自転車進入防止のガードの隙間を無理矢理通ろうとして引っかかっていました。その後おねえさんはは上手く自転車をそらして何事もなかったように駅構内を自転車で通り過ぎていきました。自転車通行禁止云うに・・・てかなんだこの全開の下町臭は!夜の国道駅結構騒がしい!

 残念ながらもう電車の来る時間です。今度来る海芝浦行きは本日の最終なのでコレを逃すと本日もう海芝浦へは行けなくなります。「何度来ても新たな発見」今回の国道駅訪問で考えたキャッチフレーズですが、よくよく考えれば近隣住民にとってエライ迷惑この上ないコトですね。一年に一度は国道欲を充たすときっと良いコトがあるかもしれません、また来ますね国道駅

 さて、この日海芝浦行き最終電車には意外と云えるほど沢山の乗客さんが乗っておりまして、この点でも鶴見線ナメてたこと深くお詫びしなければいけません。ナメられようが尊敬されようが関係なく、たいした距離でもありませんので電車はすぐに海芝浦駅に到着します。途中浅野駅から分岐して路線は運河に沿って、その辺りから車窓がただならぬ雰囲気を見せ始めて、これから向かうは正に一般人には隠匿され明らかにされない秘密の軍需工場に向かうのだ、そんな錯覚を覚えながら・・・夜の鶴見線車窓すごい。

 駅到着、3両編成の列車の扉が開くや否や潮の香りが車内に押し寄せる。夜なので、昼より不確かな視覚を嗅覚が補うべく敏感に働くからなのでしょうか、とにかくすごい潮の香り。

 潮の香りの漂う向こう、工場の光、ああ夜でも、機械が一生懸命働いてる、そう思うだけで心ときめく景色に電飾が彩りを添えます。 

 工場から流れるあん中入ったらたぶん死ぬなの排気ガスが電飾の光を背景に見事に東雲ってて

 今度来る時は三脚を持って気合い入れて写しましょう。あわよくば、当たり前の如くなんの放送も無く出発する最終列車に気付かないふりをしてなし崩し駅寝を敢行しましょう。東芝の警備のおじさんに土下座の一つや二つする覚悟で。やりたいことにやらなければいけないことが重なる、常に人生の深淵に足をかけていること思いを馳せながら海芝浦駅を後に。

 所変わり浅野駅は工場に囲まれた深淵のただ中でした。どーでもいいことですが海芝浦方面から扇町方面への乗り換えは4番ホーム鶴見寄り先端にある構内踏切で3番ホームへ、3番ホームから海芝浦方面先にある投げやりな駅舎改札手前の構内踏切を渡り、扇町方面本線島式ホームへ、と云う駅構内塗りつぶしに近い移動を強いられて、しかも私列車は海芝浦駅側最後尾に乗ったのでまるで北鎌倉駅で降りるのに大船側最後尾に乗ってしまったくらいのうっかりといらいらを噛みしめる羽目になってしまいましたが、

 列車は無事扇町駅へ

 扇町駅周辺の電飾はやや控えめで、かろうじて白煙の東雲ってるのが(もはや意味わかりませんね)これもまた味わい深く、やはり三脚なしの夜景はブレまくってキツいぞと

 檻の中の猛獣に相談していると

 小さいのが現れて背中を触らせてくれました
 一年来ない間に個々扇町駅のネコ勢力図に大分変遷があった様子で、とりあえずこの真っ白親子、お母さんの方は随分とガタイが良く駅構内JR貨物事務所前にあるネコエサ置き場に他のネコが来ると威嚇しまくっていてここらの大姐御に収まっていることよく解ります。

 他のネコは仕方がないのでこの大姐御の目を盗んでエサにありつくしかない様子。もしも見つかれば水だけ飲んですごすごと退散するしか無く、工場街の片隅でネコどももなかなかシビアに生きなければいけない大自然の掟を垣間見るのでした。自然なんて欠片もねえけど。

 仔猫はお母さん似に真っ白。夜だと云うに動くモノあれば蚊だろうが人の手だろうがお母さんの尻尾だろうが何でもかまわず飛びつかずにはおられない血気盛んなお年頃、将来が楽しみです。

 そして夜の知らない顔を見せてくれた鶴見線、次に来る時はどんな顔を見せてくれるのか、こちらもとても楽しみです。