常磐線不通区間駅寝事情

 (注)当記事はやむを得ず駅寝を行った事実を記してはいますが、記事の主旨としてその事を積極的に他者に薦めるモノではありません。当記事を参考に読者が行った行動によって人為的自然的超自然的に遭遇した被害についてブログ主には関わりねえことでござんす。

 私の記憶が正しければ、3日続く相馬野馬追最終日の朝も南相馬市内の宿に予約を入れていたはずだったと思ったのですが、気付いたらその人泊まることのできる宿の目星を付けて、リサーチして、で実際に駅寝して相馬野馬追最終日に備えているような備えていないようなそんな一晩を過ごしていました。

 ご周知の通り茨城県から福島県浜通り地域を抜けて仙台方面へ向かう常磐線は、件の震災とその直後に発生したどう贔屓目に見てもバカたれ共の不手際で悪化したとしか思えない福島第一原発事故のおかげで福島県内北半分区間が不通という憂き目にあってしまいまして、これは総武線沿線の同県内より常磐線沿線の茨城・福島浜通り地域により近いシンパシーを感じる元チバラギ県民(千葉県東葛地域住民)として正に同胞が傷つけられたが如くの悲しい出来事でして、その昔「仙台」行きサボを下げた旧型客車が柏駅を通過して我孫子駅に停車していたことなど、そもそも時刻表中距離のページには柏駅の表記が三河島南千住と同等の無きに等しい扱いだったことなど今の若い人に話してもとても信じてはもらえそうもありません。話す機会などありませんが。

 ところで私が自身に課している駅寝のマナーは上記お題に書いてある通りなのですが、それを実践に移した場合、例えば20時台に終電が行ってしまう某ローカル線内の駅で駅寝を敢行した場合、例え明日の初電が5時台に来たとしても単純に9時間睡眠が取れる計算になりますが、より本数の多い幹線となるとこうも行かず例えば日付越えて1時台に終電、初電が4時台という都市近郊の駅の場合3時間しか睡眠の時間がない計算になります*1。ここ浜通りを走る常磐線も首都圏近郊と比べると大分ローカル色豊かな運行体系となってはいますがそれでも11時台終電、5時台始電と幹線としても矜持を保つダイヤが敷かれています。何が言いたいのかと云うと、つまり幹線の駅に泊まることはそれだけ睡眠時間を削らなくてはならないのです。西行ならずともいつ何時何が起こるかわからない旅の空で十分な睡眠時間が確保できないというのはこれは大変なリスクです。そのな理由で幹線内の駅で駅寝を敢行することは極めて多くの犠牲を伴う行為であるのですが、ご存じの通り現在常磐線南相馬市亘理町区間は運休、不通、とは云っても駅舎・待合の被災は免れ無事と云う駅も多く、これは幹線で駅寝する機会でもあるのかなと、被災だ休館だお仕事関係で満室だとなんだかんだで心持ち確保に苦労したはずの南相馬市内宿をあっさりキャンセルして駅寝をすることにしました、ごめんなさい。

 野馬追は相双地域で行われるお祭りです。そのお祭り見学と云うコトで駅寝候補の駅も自然その周辺と限られてきます。更に目標を定めると、当然のことながら「無人」、更にこれも当然のこととして「原発事故警戒避難区域」外の駅というととでこの条件でいくつか絞られてきます。その条件に鑑みて今回私が駅寝候補として絞った駅は
 1 駒ヶ嶺駅(新地町)
 2 磐城太田駅(南相馬市)
 3 日立木駅(相馬市)
 以上3駅です。結論から言えば2の磐城太田駅に駅寝をしたのですが、以下それぞれのメリットデメリットを述べて最終的に磐城太田駅に駅寝を決めた経緯を述べます。
 1 駒ヶ嶺駅

 一番最初に候補に挙げただけ有って当初は駅寝の最右翼でした。無人駅であることは言うまでもなく、ドアの付いた簡易駅舎は比較的新しく綺麗ですし、汲み取り式ですが水道の通ったトイレ、何より目の前に新地火力発電所という環境で景色がヨイという宿泊には結構重要な用件が揃っています。更に結構重要、周辺の線量値を計ったところおおよそ0.1μSv/hと割合安定したこれだけ聞いたら一も二もなく泊まるしかないという感じですが、念のため下見に行ってみることにしたのですが、

 難点、「野間追行事開催地の多珂神社が20キロくらい離れてる」「住宅地が近くにあり結構人通りがある」「駅舎がガラス張りだから夜間消灯がないと人ん家から丸見え」

 更には「駅舎お隣の電柱が震災の後遺症で傾いててコワイ」

 「電車代行バスの発着場所になっていて、最終23時台、初発5時台としっかりと幹線のダイヤで寝てるヒマが無い」とこれが結構キツい条件です。まあ朝4時起きに旅寝の空、ついでにバイクまであるそんな好条件に暇を持て余してして困ってしまう人は初めっから旅なんかしない方が良いのですがともかく、夜中なり朝方なり「何か」あって満足に休めない状況になった場合を想定するとさすがにこのスケジュールはキツいということで他は好条件の駒ヶ嶺駅、結構ぎりぎりまで悩んだ挙げ句今回はパス。東雲の空に燻る火発の煙突が見れないことは残念だったのですが。

 使われない駅があっという間にどのような状況になってしまうか、Wikipediaの駒ヶ嶺駅項目貼付の写真*2と比べてみれば一目瞭然、けどきっと復活するだろうから僕は泣かない、駅でも寝ない。

 2 磐城太田駅
 待合所はドア無しの寝るには短いベンチ有りの簡易駅舎。汲み取り式のトイレ有りますがどういうワケか扉開けっ放しの草生え放題虫飛び込み放題の現状出来うる限りの荒れ模様なので使用するには少々勇気がいります。結果的に駅寝敢行した駅ですが詳細については後述します。

 3 日立木駅
 日立木駅の存在に気付いたのはどの駅に泊まるのか決めかねて予定の大分押してきた時刻で、とりあえず風呂でも入りに南相馬〜相馬〜県境越えて丸森町の青葉温泉まで風呂入りに行こうとしていた時で、その青葉温泉には相馬から行くには道が狭くて大変だとか温泉玄関先にネコが沢山いるとか、

 3匹のウチ何処か遠くの方を見て物思いにふけっている1匹はあまり人恐れずもふれるとか

 実は仔ネコが隠れてて人がいなくなった頃合いを見て玄関先で楽しそうに転げ回ってるけど人の気配感じたらあっという間にいなくなってしまうとか

 ということは駅寝とは全く関係のないことで、その日立木駅、「無人」の条件はクリア、更に国道から遠く離れているため列車代行バス、この駅に関しては駅まで来ずに道の駅相馬が停留所になっていて、つまり代行バス来ないためその気になればいつでも寝られる、という好条件が付きます。トイレもあり、汲み取り式ですが水道通ってます。一方でこちらも住宅地が目の前まで迫ってきて大変目立つこと、そして駅寝の要駅舎(簡易)及び待合所についてなんですが、待合所はドアなし、中途半端な長イス有りのため、外気や虫の遮断は不可能、ほとんど野宿と変わらないという決定的悪条件となりますが、今の季節に限れば外気に関してはそんなに気にならないでしょう。一方でホーム上にある待合所、相馬方面の待合所はドア有りの作りで、中に中途半端な長イス有り。こちらの待合室でなら外気及び虫の遮断は可能そうです。
 以上「寝る」条件的には結構好条件そうに見える当駅ですが、その駅舎・待合室共に長く使われなかったコトによるクモさんとその巣、その他諸々の虫の巣と化しており、そのまま寝るのはすごく抵抗アリ、まともに使うのはちょっとお掃除でもしなければキツいなと、と云うのが私的に最大の欠点でした。要はめんどくさかったんです。
 ただ、ホーム待合室を拝借する場合、夜例えばトイレとか行きたくて駅舎・駅構内入り口の方角に御用のあった際は只今運行休止中の便を饗して立派に健在の跨線橋を使わずホームを下りて線路を通ってまたホームに登って、と云う移動法をそれほどキケンを伴わず行えるというのが何となく素敵です。けど誰もいないからと云ってもホームとか線路とかにゴミとか捨てんなよ。ちなみに、めんどくさかったから写真はナシです。

 2 磐城太田駅
 磐城太田駅は相馬野間追2日目祭事が行われる相馬太田神社の最寄り駅で(3キロくらいあるけど)、本年度祭り開催時点で立ち入ることが出来ない3日目会場相馬小高神社に代わって選ばれた多珂神社最寄りの駅と云うことで、図らずも本年度相馬野馬追と深く関連する駅となっています。駅の位置自体はすぐそこが福島第一原発半径20キロ圏内となり、休止区間含めて常磐線駅の駅の中では北から近づける最南端の駅ともなっているという、見かけ何の変哲もない無人駅と行った佇まいが俄に数奇な宿命を秘める、謂わば運命の駅です。もっとも今回震災において福島以北の常磐線の駅は隈無く運命の駅と呼んで良いと思われますが。

 なんだかんだで候補3ヶ所に渡る駅から最終的な駅寝場所として決定するまで時間が経過してしまい、決定後ようやく磐城太田駅に着いたのは夜12時近くでした。この時間になると中折れ状態の国道6号線いわき方面を走る車は殆ど無く、街灯も無く、鹿島原町間未だに撤去が済んでいない漁船その他船がヘッドライトに映ってえらく不気味で、原町市街を過ぎるといよいよ車など通る様子も見えず、遠くに検問所の赤ランプが見えてこれ以上は入るなというコトを教える。当日、昼間3回ほどこの場所でUターンしてるのでお巡りの近くに行くのはもうイヤですと大分手前で右折、後は道なりでヘッドライトの向こうにうすぼんやりと駅の高架橋が見えて磐城太田の駅はすぐです。ちなみに、まだ地震の後遺症とその後の工事で引っぺがしたままの道がありますので夜間通行は要注意を。
 夜間、駅構内の電気は点いていませんが駅前街灯が割と明るいので暗闇を手探りで、と言う程ではありませんがやはり昼間のウチに下見をしておいたお陰で寝袋敷く場所にクモが巣張ってないか、虫が這いずり回ってないかある程度は見極め付けます。もちろん寝ているウチに鼻とか耳とか入り込んだ蟲がその内体の何処ぞに卵など産み付け孵化した幼蟲が耳やら鼻やら目玉やらから絶え間なく出てくるようになってはコトなので虫対策に怠りなく、ふとホームの先に何やら赤いふわふわが、よく見ると先程の国道6号線、検問所で頑張ってるパトカーの赤色灯でした。ここは本当に避難区域の縁なのですね。

 ベンチ利用が出来ない駅寝の場合季節によっては底冷えが物凄く敷物は不可欠の装備となりますが、当日のような陽気ではこの少しひんやりするくらいのコンクリ地面が大変気持ちよく、比較的安易に眠りに落ちつつ、気になるのは時々駅前を通り抜けていく車の音とそして、なんだろうか、地べた体を接して初めて気がついたのですがなにやら遠くからゴーっといったような音が響いている。こんな夜間に工事だろうか?それとも海側の原町火力発電所の稼働音がここまで響いているのだろうか? そんなことを考えながら気付いたら寝てました。
 もうこの時点でいろんな意味でかなりダメダメなんですが、そのダメの上塗りする事態勃発。つまりですね、地震が発生したんですよ。後からの情報で知ったのですが震源福島沖の最大震度が相馬市震度5弱、南相馬市も震度4とかなりのモノです。就寝中の地震、気付かないことも多いのですが今回はさすがに揺れた瞬間に起きました。揺れがちょっと尋常でなかったのこれは4以上ありそうだと直感、何より自分は震災でダメージ受けた駅舎に寝てる、と云うわけで潰れて死んだら身バレしてイヤだなと思いながら、靴履いて貴重品鷲掴みして逃げる・・・揺れ収まってなんか駅舎無事だったので気を取り直してそのまま寝ました。だってまだ4時だしー。二度寝(?)にオチながら津波来たらどーすんだとかすぐそこに検問張ってるお巡りいるから来たらなんか知らせあるだろうとか、本当自分はダメだなぁ〜とか自覚しながらの駅寝得も言われぬ感情が持ち上がってきます。きっと常習的にこの記事に来る人々は間違いなく何らかのダメを抱えた方々だと思われますのでこの感覚多少はわかっていただけると思います「ほんとダメだな〜、けど寝ちゃえ」。

 朝起きたら目の前をダンゴムシがもそもそ歩いていて、自分も生きているのを知りました。

 周囲物凄い霧が立ちこめ、すぐ近くだと思っていた検問のパトランプが全く見えず、この深い霧の中から一番列車でもやって来ようモノならまたとてもステキな目覚めともなるのでしょうが、残念ながらそれは今のところいつ叶えられるかわからない幻であることはほんの少し使わなかっただけで簡単に赤錆の浮いてしまうレール無言の内に全てを物語っています。

 時刻表を見て気付きました。この駅、いわきと仙台との中間。

 この日、野間追行事の行われる多珂神社は駅から目と鼻の先です。その気になれば祭りの始まるぎりぎりまでこの駅で寝てられるのですが、いろいろと用意もありますので荷物だけ置いて原町市街方面へ出かけます。朝食も目的には含まれていたのですが、表面的には大分落ち着きを取り戻しているように見える原町区内、実はあのマックでさえ未だに営業再開できていないという状況でしたので*3結局これも営業時間短縮中のコンビニで済ませて終わりです。後は原ノ町駅へ行って昨夜の駅寝代として140円の入場料を購入。駅員さんが「不通で構内立ち入り禁止の駅の入場券を何故購入するのか理解できねぇ」みたいな顔をしていましたが理由説明すると面倒なことになるのはわかっているので笑顔でスルー。他にようやく電波の通じる場所に来たと云うことで昨夜の自身の情報を見て今更ながらアセったり、その後駅へ戻り歯を磨いて多珂神社へ。

 行事全て終わって駅に戻り帰り支度をしていると閉店中と思われる目の前の商店の2階、窓際で仔ぬこ2匹が遊んでいました。年格好からいってこの子らは鉄道の存在を知らないかもしれません。常磐線が再開して磐城太田の駅が再び利用されるようになり、駅前の商店も再び店を開けた時、この子らにとって未だ経験し得ぬごく当たり前の景色が再び始まります。ごく当たり前の景色が、初めて経験するモノとして用意されるその時も、この子達の好奇心が旺盛であらんことを。

*1:そのような駅で駅寝ができるのかという問題はこの際置いておきます

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A7%92%E3%83%B6%E5%B6%BA%E9%A7%85

*3:マクドナルドだから」なのかもしれませんが。周囲のファーストフード店ファミレスの類は営業時間短縮ながら営業再開していましたから