小和田駅Bルート その1

 国土地理院地図を見てみると小和田駅へから余所へ移る経路*1が四ヶ所程あることになっています。一つは一番有名な、マンガになったりバカのブログのネタになったりしている塩沢集落に抜けるルート*2、コレを仮に「Aルート」とします。もう一つがその「Aルート」途中、所謂「Mさん宅」前で分岐して途中の吊り橋高瀬橋を渡り中井侍駅へ抜けるルート。これは途中の高瀬橋が無残に崩落しているため*3それ以上は進めないこと、コレも有名なお話しです*4
 以上2ルートは小和田駅から方向としては東側へ向かうルートになっています。これに対して西側から抜けるルートも嘗て存在して途中集落を抜けながら大嵐駅方面に抜けるコトができたコト、現在集落はとっくの昔に遺棄され廃集落になっているモノの道そのものは踏み跡程度に残っているとの由。所謂「Aルート」も小和田駅東方面から出発して最終的に天竜川林道→西山林道と立派な舗装道路沿いに大嵐駅へ抜けるのでいずれのルートもどのように大嵐駅へ到着するのかがポイントになってます。と云うことで今回は別ルートを使うことで小和田駅下車、そのルートを「Aルート」以外のルートと云うことで「Bルート」とすることで隣駅への歩行が可能かどうか試してみることにします。
 「おっちゃん、どーしてそんなことするの?」
 「知るかボケ!」

 久々に降り立つ小和田駅、私が喜び勇んで降り立つや他に二人程ドア開閉ボタンを押して三県境界駅ホームに降り立ったモノの一人は素早く写真を撮るや置いて行かれては迷惑とばかりにさっさと列車に乗り込み「本当に」下車したのは私ともう一人の駅下車後歩いて大嵐駅まで行こうモノなら途中で死んでしまうのではないかと思われるようなお歳の紳士で、巷溢れたテツブームとやらもやや落ち着きを見せたか、小和田駅非常にその本来の佇まいを見せてくれて大変幸先のよさげな下車と相成りますれども、いざ列車の走り去って行くにこれ以上の不安のない駅、世は落ち着けども心落ち着かずとはこの事かと、眼下天竜川を眺めれば両岸妙に土砂の溜まった様子、秘やかに季節毎に異なる異界の駅の様、奇妙故に却って絵にならず。

 もう一方の下車人はホーム降りて例の「三県〜」の看板を写真に収めて後さっさと駅舎の向こうへ。当方はと云えば背に駅寝する用意の大荷物、人里離れた駅で急ぐ用もナシと駅舎腰掛けに悠々と荷を解く。

 改めて確認するに小和田「B」コース、候補は駅を出てそのまま線路沿いに西側に歩いて一番最初のトンネルの脇から始まる道でして、前回下車時「散策道(!)*5」「門谷・大津峠方面」と表示が示されていたウチの「門谷〜」方向*6です。その方向表示のあった場所を確認するとなんと

 行き先表示は取り外され頑丈な柵が作られ件の「門谷〜」は無かったことにされてる。辛うじて残っている「散策道」もかなりムリのある表示と思われるのにその更に上を行くムリさがとうとう無かったことにされてしまったか、まだスタートしてもいないウチから物凄いハイペースでトばす恐るべき「Bルート」

 この道確かに一旦小和田駅飯田線構内に進入して行かなければならないのでその意味で危険と云えば危険、柵を立てる意義も良くワカります。

素直に柵のある意義を尊重して極力飯田線線路付近は通行せず代わって今は使用されていない貨物ホーム、その裏側はこれから密林と化そうとしている最中であり太く育った名前のワカラナイ草木の幹なんか私が道切り開き兼護身用に持ってきた鉈の刃も通さない。最も手入れもされていない鉈の刃は錆錆で鈍器程度の威力しか無さそうだが

 貨物ホームが途切れる辺りで密林のなりかけも途切れる。その先線路はぽっかりと開いたトンネルの入り口に吸い込まれ、同様にそのお隣、間違いなく「道らしきモノの入り口」とわかる佇まい、

 近くに立てられている白い行き先表示にはうっすらと「門谷」の文字を認める。先程入口そのものに柵を立てて無かったことにされていたのとは大違い・・・まあみようによってはこちらも無かったことにされている感強い気もしますね

 相変わらず前置き長くようやく踏み出した「B」ルート、その前置きの方が荒れすぎてるんじゃないかと思われる、当初想像していたより大分キレイな踏み路、コレはもしかして隠された楽勝コースなのか、そんな思いを抱いていると何やら小屋のようなモノの姿が

 その正体は小屋のようなモノでなく歴とした小屋でした。何か山作業に使っていたのでしょうか、小屋の戸は取り払われて、と云うより吹っ飛ばされていてと言った方が適切か、中には特にめぼしい、もとい現在も使われてそうな道具類は残されておらず代わりに入り口付近に「H16〜」とマジック書き。小屋を建てた時期なのか他に何かの意味があるのかよくわからない。わかっているのは現在この小屋が使われている形跡がないこと。

 廃道その他人界久しく離れて後突如として登場する人口構造物の存在は、時折心に幾ばくかの安息を与えてくれるモノです。「なんとなく人が近くにいるような」。そんな気分がそうさせてくれるのでしょう。無論全て気のせいです。或いは本当に山奥の廃墟に自分以外の何者の居ようモノならそれはクマに遭遇するより恐ろしい事態である気もするのですがさておき、小屋通過後もそのまま道は続きます。確かに定期的に人の通過している形跡はないモノの、足捌きを迷う程にガレた石やら倒木があるワケでなく、例えて言うなら週一度くらい通えと云われればまあ週一度位なら仕方ないかな、と諦めても良いような程度に道の痕跡は残っております。無論雨雪風の強い日、地震のあった直後はパスしてもヨイ、と云う条件付きですが。

 気付くと足下、簡易橋の痕跡。痕跡というかまだバリバリ現役張れる位立派に役をこなしているんですが、主に支えているのが通行者でなく堆積する土やら石やら葉っぱやら終いに底から草木やら、で半分埋もれてる。その内役をこなせなくなり崩落してしまうのでしょう。念のためなるべく橋の部分を踏まないよう崖側に重心を向けて渡ります。

 ここまで割合平坦な道と思っていたのですが僅かに傾斜を造って徐々に高度を上げているらしく天竜川の流れが思ったより下に見えます。

 先程の「橋」を過ぎた辺りからやや道荒れ気味に、崩落土砂崩れとまで行かなくとも経年堆積物が道を埋めてやや斜め気味の行路を取ること多くなりますが心胆寒からしめる、と云うことは全然ありません

 その内所々ガレた石やら目立つようになって「ああ廃道だな」と気分も乗ってきます。

 とは云うモノのここら辺まだ道の跡がしっかり残り、と云うか立木に守られているような感じで道のそのものの崩落は無く普通の山道、と言った感じでまだまだ余裕

 足下にサビサビ空き缶発見。遙か昔に捨てられてそのまま放置された空き缶やら空き瓶やらの模様を眺め当時を思い出す、もしくは初めて見る模様に感激するのはちょっとした楽しみの一つですがここまで錆生すともはやどんな模様だったのかそもそも飲み物の空き缶だったのか等推測することも難しく。

 その後道は途絶え、と思わせて九十九折れに方向を変え今までよりも傾斜急な登り道に転じるのですが、その道が折れている辺り、なんだか道が細く先の法に続くような感じがしないでもない

 間違いなく九十九折れの道を無視してこの先を歩いていったヤツの痕跡が見えます。道が無くなっているのならともかく、道があるにも関わらずその道を無視して直進していくそいつは間違いなくバカだと思われます、俺なんかよりも段違いに。そんなバカに付き合ってなんかいられないの、素直に方向を変えて九十九折れの先を目指します。

 久々に味わう起伏。道の脇に掃き清められたかのように並んだ落石がちょっとオシャレ。道そのものはたいして荒れている風でもありません。

 坂道の先、現れたのは切り通し、この道が人口のモノであることの証しです。以前の宗太郎越しや鎌倉歩きでの経験で切り通しを越えると大抵何らかの変化、劇的展開が現れて正に異界を分ける境目となっていることの多い切り通し、

 そしてここでも期待を裏切らない、切り通しパネェ・・・と云うかさすがワイルドですね、小和田周辺オブジェは

 こちらの廃車の存在、既に諸々のWEB記事にて紹介されて冗談でなくある種のオブジェと化している存在なので遠くから車の存在が見えてもそんなに驚きもしない、通過点位に思っていたのですが、近づいてみてこの有様、正直度肝を抜かれました。

 鈴木屋さんというさも魚屋でございと云った名前*7が確認できます。鈴木屋さんがどのような意図でこのように遺棄したかその心情容易に想像つきます

 放置されてどのくらいの時が経つのかもはや調べようもありませんが、経年相応に車の細かい部分あちこち段々劣化の後綻び広がりどこから見ても立派な廃車となった様子見て取れますが

 狙い澄ましたかのようにまさか倒木の餌食となりその廃車化にトドメを刺されようとは鈴木屋さんもその後ココを通っていった通行人(?)も当の軽トラご本人も想像だにしなかったはず。自然の驚異・・・と云うか何らかの悪意を感じんでもない、いずれにせよ倒木に直撃したら終わりだよ、と改めて戒めを胸に先に向かいます

 ふと遠くから電車の走る音。天竜川水面は眼下遙か遠く人の姿など当然獲ずその中に鉄路の音のみが響く事なんと不可思議なコトか

 一方廃車はともかくとしてその先、意外なほど道がしっかりしている事にいささか拍子抜け

 などと油断していたら本格的倒木の登場。廃車に直撃すんだから行く先に倒木ぐらいあるわなぁ。けどまあ、跨いで越えられる倒木は別にたいした倒木でない

 小規模なガレも頻度多くなる。小規模なガレの上に時間差でまた小規模なガレが起きて高さの異なる経路が二つ出来たような道

 小規模と云ってもガレはガレですから油断して体重載せて足すべらすとこんなところを駆け下るハメに。油断は禁物。

 一方でこんな、田本駅メインストリート程度に通るに差し支えない立派な道も現れたりして、遙か昔この道がきちんと使われていたのだよと云う形跡が見て取れ現状との差異がとても悲しい

 きちんと石垣積みで、本格的に整備されていた跡が見て取れます

 更にしばらく、おなじみ「発砲注意」の看板。飯田線沿線では特に珍しいモノでもありませんが

 問題はこの看板の周囲、コレもおなじみ整備やさんやら地図やさんやらが道しるべとしている赤いビニールテープが点在。そういえばこんなところでなんのための電柱だ!? モノの情報ではこの道の途中外れてとんでもない坂を上っていくと廃集落があるとのお話ですがあるいはそちらへ繋がっていた電線の名残でしょうか? 赤いビニールテープを伝って行く選択もありましたが、どう見てもなんの装備もなく素手で行くのはアレなルート、そもそもルートと呼んで良いのか判らないような傾斜、足場の様子に、曲がりなりにも道筋がそのまま残っている現ルートを伝って行く方が百はマシと思われ、そのまま道なりに進む

 段々と倒木のレベルも上がってきました。断続的に土砂が流れ込んできている様子も見て取れてさしもの石垣道もコレはたまりません

 松ぼっくりってクマの餌になるんだったけ?

 だらしなく晒した倒木のケツ(根元)。根っこが思いっきり岩場をくわえ込んで成長、ところがその岩場毎持ってかれて今や道のど真ん中に転がる

 暫し後、二つ目の簡易橋。ただ、なんかおかしい

 橋の部分は経年劣化か腐れたのかともかく欠けた櫛みたいに梯子状の足場がぼろぼろ剥がれて重心も傾いて不安定。足を乗っけようものなら足場部分突き破るかヘタしたら橋ごと転落しちまいそうな、見た目からして橋の用を為していない見かけ橋。足さえかけるのもはばかられ、橋の向こう側、崖の部分を足場に向こうへ渡る。昔はおそらくある程度深い沢だったんだろうそれで橋を架けたんだろうその後土砂崩れで橋の間近まで埋もれて今や箸を使う方が危険という本末転倒

 でも橋があればいい方なんです。遂にこの場所至り道を完全に分断する沢の存在。にもかかわらず橋がない

 ちょっとコレは今までとはレベルの違う高さ。以前は間違いなく何らかの渡しがあったのだろうが今や見事に跡形もない

 沢の下を迂回しようにも

 道まで戻るにはあの傾斜(と云うかほとんどガケ)をよじ登って行かねばならない、そもそもどの地点で登っていくのが足場的に良いのか素人に判ろうはずがない。繰り返すが道具の類は全くない。ココで引き返すしかないのだろうか? 良いじゃないか「小和田駅Bルートは途中橋が落ちていてその先いけませんでした」で

 ・・・カズラ!?

 半分諦めながら最後にキジでもウっとこうと道土台の石垣伝いに沢に降りてムダなあがきと知りながら再び道へと至るこの高低差を道具無しでどう克服しようと思案していると、キジウチながら見上げると先程から視界の隅にぷらぷらと闖入する異物の存在。正式種名は不明ながらとにかく上から下まで木々の間を伝って絡んでいる植物の蔓、引っ張ってみると思いの外頑丈、人間一人位ならロープ代わりに頼って登っても問題は無さそう。ただ途中で蔓のブチ切れようものなら後頭部から転落すること必定、下は岩場、岩場を避けてもそこは足場覚束ない沢、後は墜ちるのみ

 登りました。

 ここまで来たんだから*8それくらいするでしょう。まあ、慎重に慎重を重ねて「切れる様子はない、タブン」と確認の上で挑戦したし

 あまりに慎重に足下ばかり注意してたせいか、眺望遠景が恋しくなる

 足下遙かに天竜川。結構遠くまで来たなぁ

 なおも道無き道ではなくて道はあったけどその道無くなりつつあり一部本当に無くなってしまってる道ああややこしい!、を進みます。ここまで来たら多少のガレやら倒木やらは書き割り位の認識にしか至らなくなるのですが  

 ふと自分の歩んでいる道の先を見てみるとどうも、遠くから見ても尋常でない様子の崖崩れ。違うよね、まさかこの道の先でないよね、自分に言い聞かせながら進むと

 ココらからして「道埋めちゃうよ!?」ってな自然の意気込み薄々感じるのですが、ココは敢えて無視して先へと進むと

 えっとコレは何かというと・・・解説しよう、コレは道の跡と思われる場所です。比較的新しいと思われる土砂崩れが完全に道を埋めています。何コレ?

 更にこの土砂崩れの先、今度は沢でなく殆ど谷とも言うべき切り立った崖で道は分断。その道の間には丸木橋が二本渡されており、これ以前に見かけた梯子状橋の成れの果てか、橋崩落後仮に渡した物か、或いは偶然の倒木によって丸木橋のように見えるモノか。いずれにしても何このムリゲー!

 土砂で埋まった道には片足分の足場しかなく、それがまだ崩落後そんなに時を得てないと見えて固まっておらず重心の移動の具合によってはずぶずぶと足が埋もれていき止まっていると逆にバランスを崩していくというトンデモない地盤。この地盤のあの崩落場所を体重を上手く移動してバランスを保ったまま突破、その直後に現れる丸木橋に上手く身を委ねる、やっぱムリゲーだ。第一崩落の向こう側がどのようになっているのかこちらからははっきり確認できない、丸木橋も体を委ねても良い程安定しているかもワカラナイ、ヘタしたら丸木橋即トラップ→ゲームオーバーになりかねない、見ての通り崖下はコレだけの高さ、傾斜、落下後命拾いできても這い上がって来れる保証もない。オレはリュウケンに足場ごと叩き落とされてトキを掴んで崖を登ってくるラオウじゃねぇんだうっかり滑り落ちただけでゲームオーバーのスペランカーなんだ

 「止まっていると足が埋もれていく状況でルート進行を検討して歩行を躊躇しているのなら臨機応変に足場を探すコトは無理だろう」今回の旅で一番考えて導き出された結論は誰が考えても至極当然の結末でした。戻ろう

 久々の駅間歩き挫折敗北の味は、体力の関係で早いとは云えない足取りを更に重くさせるのに充分でした。それにしても鈴木屋よ、お前は一体どうやってここまで来たんじゃぁ!(つづく)

*1:脱出経路とも云う

*2:http://d.hatena.ne.jp/sans-tetes/20091112

*3:http://d.hatena.ne.jp/sans-tetes/20091116

*4:そうなの!?

*5:要は塩沢集落方面

*6:http://f.hatena.ne.jp/sans-tetes/20091103110017

*7:偏見

*8:言う程大した距離でもないのだが