神在月、出雲伺って出雲大社に行かない 雲州平田 平田一式飾

 職場の人に土産を渡しながら出雲大社行かなかった旨話すと「出雲なんて出雲大社以外見るトコ無いでしょ?」と言いたれたヤツがいる。そんなヤツにとっては出雲大社行ったことすら価値でないと思うし、そもそも「埼玉*1」に住んでるヤツがよくぞそんなセリフ言えたと感心することしきりです。まあ、どうせ島根と鳥取の区別つかんだろと「かわいい」それだけの理由でうさぎのパッケージのお菓子を買ってきた私にとっては願ったりな反応だったワケですが。

 山陰線も幹線とは思えない大概なローカル線ですが*2宍道湖のトイメンで張り合ってる一畑電車もそれに輪をかけて大概で、ここまで大概だとソノモノがそのまま観光資源になってしまう一畑電車北松江線、地方ローカル線の旅情を十分堪能しようと期待にワクワクしながら電車を待っていると昔井の頭線で使われてた車両が入ってきてご丁寧に塗装までそのままと凄い勢いで吹っ飛ぶ旅情は長野市権堂駅小田急ロマンスカーが通過して行くのをぼーっと眺めている気持ちによく似ています「なんで遠くまで来ていつもの通勤列車拝まなあかんねん」

 しかし車窓から見える宍道湖畔は一度0まで下がった旅情ゲージを一気に押し上げる破壊力、静かな湖面に反してワロス曲線のように激しく高低する心の中は旅先では常に冷静であるよう指示を出す理性の踏ん張りのみに支えられています。これまで何とか平静を保ちつつもうまもなく大社方面の乗換川跡駅までもう少しだと息をついたその間隙を縫って飛び込んできたのが雲州平田駅ホームに飾られていた

 平田一式飾製「しまねっこ」。
(参考動画)

 出雲地方に足を踏み入れてまもなく「しまねっこカワイイー!」で心奪われいた自分にとってこの誘いは死ぬほどの吸引力を持ち

 更には平田一式飾のともすれば悪夢的と言うべき魅力がもはや私の冷静な判断力を失わせていたのでした。かくして私は出雲大社行きをあきらめ旧平田市周辺で貴重な時間を浪費することに相成りました・・・。


 というのはウソで、目的は当社から旧平田周辺。日本海に近い山の中に「鰐淵寺」と云う古くからの名刹があること、また平田を平田たらしめん「平田一式飾」の名作の数々を拝むことが出来ればと思い味わい深い一畑電車雲州平田駅で下車したのでした。

 ともあれ平田一式飾、そのインパクトは結構強烈。

 かつて横尾忠則だか誰かだか忘れたけどとにかく有名な表現者が「日本のアルチンボルド」と絶賛したと*3いう平田一式飾、例え感性薄弱な凡人であってもその凄まじいインパクトは心強く衝撃与えること充分。

 「一式」でもって作られる多彩な造形、遠くから見る、近寄って見る、それぞれ異なる表情。こうやって近寄ってみるとその造形を形作る細胞とも云うべき陶器の数々、集まって形と為すためにより「それらしき」形の陶器を使うことは基本だが中にはこのように「それらしく」も陶器そのものに凝って遊び心を感じさせる謂わば「細胞のセレクト」もまた楽しい。・・・しまねっこ手がかわええの・・・

 このままではまるで平田一式飾がまるでゆるキャラのためだけのゲージツと勘違いされそうなので、きちんと王道の一式飾あります。平田駅駅舎内。お題は「国生み神話」

 平田一式飾の王道はこのような日本神話に題材を取って一幕とするモノ。更には日本の故事も多くその題材に。ココが日本である限り題材には事欠かず。

 イザナミの首飾りが素敵

 と思いきやイザナギの首飾りの無骨な湯飲みがもっとステキ

 イザナギの手がイザナミの手の上に乗ってるのでたぶん淡路島以降黄泉比良坂以前。縁起良いのがお手々にひょうたん。

 細部尽く、その形元は神にも人にも全く似ないモノが、集合し合体し神、人の姿に近づく。その様は人の心の奥底未だ寸刻みのまま暖められた想像力がその人の本能と理性と織り交ぜた触手でもって内面より引き出され表現、芸術と呼ばれる形となる様を視覚化しているかののようであり、元々神々を楽しませる奉納として創出された平田一式飾の、趣向を凝らした本意ここに見たような

 人をしてそのように引き付ける魅力をしばしば「魔力」と云う言葉を使って表現すると解り易い、が平田一式飾においては「魔力」と言う言葉は当てはまらない。実用的な日用品が醸し出す、あくまでも日用品として決して人を避けるよう作られようはずのないおおらかさ、明るさ、あっけらかんさが魔のとりつく島を与えない。日用品の集合してもはや日用足らない形を作り出す、謂わば実用品の非実用性。言葉にするとこれほど不遜な表現はない。が、形として地上に現れたこの日用品の集合体はこれほどまでに神聖「好み」に仕上がる。

 その意味でJR出雲市駅の、ホームから降りて改札を通る直前、まず何よりも先にこの一式飾に出迎えられるもてなしはとても理に適っているように思える。

 それを紹介するようにしまねっこが配置されてい図もとても理に適っている、のか? 貴様好みに曲解してないか!?
 
 ともあれ出雲市駅の一式飾は「スサノオノミコトヤマタノオロチクシナダヒメ」。

 スサノヲの剣、鍔がこれまたすげぇこと。勿論毛髪も見逃せない

 芳醇な薫りに耐え切れずオロチが今まさに口を付けようとしている八塩折之酒のに飾られた紙垂、手を抜かない容赦しない。

 初めて地を踏む駅でいきなりこんなコトされたら予定を変更してでも行くだろ平田。

 基本平田一式飾が一斉に飾られるのは七月のお祭りの時ということですが今は駅の近くに一式飾を展示する建物があっていつでも見学できるらしい。よし、本日はそこを目指そう。その前に予定していたノルマをこなそう。

 その予定遂行のために重要な一時間一本来るか来ないかの変なイラストのバスが平田駅前に到着したところで乗り込みます。結果として平田一式飾会館(?)も出雲大社も行くことなくこの日は終わってしまったのですがその理由に深く関わっているのがこのバスです。詳細は次回ということで。それにしてもこの日の島根寒かった。誰だよこの山陰日本海側は関東より暖かいって言ったのは。(つづく)

*1:特徴のない県ナンバーワン!(ソース不明)

*2:私が言ったんじゃなくて宮脇俊三さんが言ったんです。もちろんもっと愛着を持っての言い方でしたが

*3:絶賛は良いけどこの例えは何となく気にくわない