その百十二 品川区大井 『三ツ又身代り地蔵尊』


 えーっと、あの映画の舞台です。巡礼というわけではありませんが、あの映画は好きなのでまあ結果的には巡礼なのでしょう。と言うかこのシリーズそのものが巡礼と言うのでないのか? 現在、地蔵堂と細い道を隔てた場所は駐車場になっているので別に記事にも書きましたがあまり期待して来ない方がようです。
 さて、そんな私はこの日平和島で行われた上司の通夜の帰り、文字通りとぼとぼと歩いてきて行き当たったこの場所、少し予想してはいたモノの物の見事に行き当たるとは思わなかったのでツいていると言えるのか。最も、卒倒者が出て会場から救急車が出ていく通夜の場を後にしてツいているもないモノだが。ついでに言えば、東海道線を越えている時点であまりにも白々しくツいてるもクソもない。
 池上通りは南西の方角からゆっくりカーブを描いて大井町方面に向かう。例の交差点が近づいてきたことは、例の歩道橋が見えてくるのですぐに解る。夜のおかげで信号灯と街灯とで無意味にライトアップされた歩道橋は映画でイヤと言うほど見せられたこともあり、登場する男女の関係そのままに歪な印象。この時間、三ツ又交差点の交通量があまり多くない事もあり、交差点を横断する人で歩道橋を使う人はいない。老いも若きも男も女も皆歩道橋の下を小走りで通る。小走りというのは絵になりそうで、そんな人々を後目に折角なので私は歩道橋で交差点を渡る。なんか昼間もあまり使われてなさそうで、隅の方とかはゴミとか溜まる。ますますこの場は映画だけで留めておいた方が良い感が仰山。でも、折角なので、あのラストシーンはここら辺から白い日傘が見え始めたのだなぁとか、勝手に考証。廃線跡を探索しているようでなかなか楽しい。歩道橋の正式名称は「倉田歩道橋」と言うらしい。夏目雅子が日傘で笑顔。この時ばかりはいくら高くても良いから涙壺を売って欲しかったりする。
 テーブル挟んで渡瀬恒彦津川雅彦がよくだべっていた三ツ又商店街の入り口あたりは今はタイル敷きの道路。その道路の向こう側の地蔵堂は映画では木像じゃなかったっけ? 映画では地蔵堂に手を合わせるシーンはなく、映画の小道具としての印象が鮮やかなのは地蔵堂に向かったベンチに腰掛け背中を向ける夏目雅子・ネコ(アブさん)・そして沢山の幟の立った地蔵堂。現在ベンチはコンクリ製に改められその手前に「三ツ又商店街」の立派な看板。せめてネコでもいれば面白かったのだがそんなもんいない。そしてベンチにはじじいが一人。鉱物製のベンチは座ると尻がすごく冷たい。ああ現実感現実感・・・。
 地蔵の幟は健在。コンクリ製のお堂は裏側の八百屋にほぼ一体化していて、お堂から八百屋にかけて立派な幟。正面には立派な幟。昔も今も人々に大事にされていている様子がよく解り、コチラまで幸せな気分になる。ただし、額の文字は「十一面観世音」あれ? で、幟は「地蔵尊」どっちだ? 本尊の謎を解決せんと拝ませてもらう。どう見ても僧体の地蔵菩薩。額の意味はよく解らない。お堂、お花や果物、お供えの向こうの御本尊にはこの時間光が届きにくく、まともに写真に収めることが出来ない。観察中次から次へと現れる参拝客、その中の子供も同じように見難さに却って興味を引いたようで堂内に身を乗り出してお顔を覗くがあまりはっきりしなかったのだろう、親に連れられながら不思議そうにしきりにお堂を見返していた。今のところ千社札が全くない。ので、奉納はどうしようかどうしようか結構な時間考えているとさっきからベンチに座るじじいが手持ちのビニール袋からチューハイ取り出して酒盛りを始める。何故かそれに勇気を得て千社札を奉納することにする。どうもどうもよろしくお願いします。居心地はよいがベンチではじじいの酒盛りは続いているのでもう後にする。そのまま三ツ又商店街を駅に向かうがそのまま駅を通り過ぎて結局更に大崎駅まで歩いてそこから電車に乗って帰る。大井町駅から乗らずわざわざ大崎駅から乗ったのは、大井町駅だとまたなんか映画のシーンのマネをしかねなかった、ワケではなく、ただ単に、大井町駅前の踏切で電車の通過を待っていたら通った電車の行き先が「大宮」だったのが何となく気に食わなかったから。