くまのいるまち その2 「くまの出る場所」
(http://d.hatena.ne.jp/sans-tetes/20120812の続き)
佐藤優氏の本にあったエピソードなのですが、ある日中川一郎が自民党本部を訪れたところ日中国交正常化に浮かれた誰かの仕業かパンダのぬいぐるみが飾られていたとのこと。反共で聞こえた中川一郎、それを見るやいきなり蹴り倒し当時秘書だった鈴木宗男に「こんなのの何処が可愛いんだ。おい鈴木!クマとどう違うんだ!言ってみろ!」と非常に激高したとのコト。正に親台派の面目躍如たる微笑ましいエピソードですが、要するに筋金入りの道民にとってクマはどんなにデフォルメされても害獣猛獣の類でしかなく決してマスコットの類として目に映ることはないこと教えてくれるお話しでもあります。
さてここ苫前町、旧苫前町役場の熊濃い展示と現町役場前の恐怖濃いクマ像の二重に深い苫前クマの性にゲップ気味の諸子には「道の駅とままえ」併設の温泉で汗を流していかれるとヨイでしょう。私も別用で道の駅には寄りましたがその用というのは他でもない
このDVDを求めるコト。相変わらずの苫前製パッケージのクールさには敢えて触れないでおきます。クマと苫前町の資料としてはとても解りやすく面白い、ココでしか売ってない。
資料は見たしモノは買ったし、後は温泉でも入れば終わりなんでしょうがそこは私、町内散らばるクマのオブジェが気になって仕方がない。実はもう一つ行っておくべき場所として例の「本当にクマが出ちゃう」三毛別事件跡地は外せない。聞くところによるとその場所に行く途中が町内で一番クマのイコンが拝めると云うコト。その意味でもクマ掛かっているこの場所、旧役場を改造した資料館と並んで苫前町の今と昔を象徴する場所だとも言える。正に訪問に胸躍るとはこの事だ(典拠不明)。
で件の場所、現在も苫前中心地の役場・旧役場・道の駅周辺から少々離れてまずオロロンラインを南下、途中国道から少し外れた古丹別という町を抜けて士別方面へ向かう国道239号線方面を曲がりその古丹別の街中から分岐する道道1049号苫前小平線を山の方へそのままほぼ真っ直ぐ。実はこの道路小平まで行かずに中途途切れて苫前町で事実上完結、このように名に偽り在りの道道は広い北海道あちらこちらにゴロゴロしているので特に非難に値する事柄でないのだが、もしも非難に値する事実があるとすればその行き着く先に他でもない「三毛別事件再現地」が立ち塞がり事実上この場所へ行くための道道と化している、なんとも贅沢な道路。更にこの道一命「ベアーロード」との愛称もあり道・町共に並々ならぬクマ祭り上げ振りと行政の本気度の度合いを知れよう。そして先に述べた「クマオブジェ」の遭遇率もこの道がダントツで高い。例えて言うなら鄙びた町を歩いていると良く遭遇する「ボンカレー」とか「オロナミンC」とか「イエスは全人類の罪を背負った」とか云う錆の浮いた琺瑯看板のような、そんなイメージ割合想像しやすいと思う。
などと上記やたらまるでクマの大量跋扈する魔界のような場所にむかつてゐるようなコトを書きましたが当然の如く私の心象フィルターが掛かった誇張で件のクマイコンにしても実際はアメリカ内陸部のド田舎のように道沿いにやたらK・K・Kっぽい看板が列を為している、と云うコトもなく道内では至って普通の田圃・牧場・農家のお宅、廃校、荒野、残りは野山と云う変哲のない風景の中思い出したようにクマのイコンが現れる、本当はそんな感じだと思って下さい。どっちやねん
已にこの時点でクマオブジェの何枚かに行き合い驚き呆れ感心しているのですがオブジェの詳細は目的地訪問後のお楽しみとしましょう。では何故目的地でないこの場所に止まっているのかと云えば、この田圃のそろそろ頭の重くなりかけた穂を分けてキツネくんが不思議そうにこっちを見ていたからで、バイクの音には何ら臆した様子を見せずこれはしめしめとカメラを取り出すや否や一目散に逃げ去って行ってこれは惜しいことをしたと。
悔しがっていると後方よりやたら年の離れたカップルの乗る車がクラクション。てっきりちょっとジャマよの合図かと思い更に道の端に避けようとするとその歳差の大きいカップルの歳取った方の男性が車から降りてきて「三毛別事件の跡地はこの先でよいのか?」とお尋ね。話の都合上端折っているがオロロンライン分岐してからこの場所まで実は結構な距離を延々と走らされていてそれでもなお未だ目的地へ到着する気配さえなくかく言う私も道が間違ってないか不安になっていたところ。ただしそこはこの道に一分一秒でも早く至った先達の奢りから「このまま真っ直ぐで間違いないと思います」と適当な返事。その言葉を信じてその車は走り去る。私はと云えばもしも間違っていてはきまりが悪いので車の行き去るまでまだしばらく佇んでいましたとさ。
頃合いを見てしばらく行くと不意に現れた茂みの先に神社。その名を「三渓神社」と云う
周囲の茂みで鬱蒼とした境内。その場所に一際目を惹くのが「熊害慰霊碑」と穿かれた記念碑。この場所に至って初めて出会った三毛別事件に関しての(マジメな)遺物で、説明によると事件当時子供だった三毛別村長の息子が長じて猟師となり弔いとばかりにクマを殺しまくって事件の供養としたとのコト。気持ちはとてもよくわかります。けど、まあ、なんちゅうかある意味迷惑なお話でもあります。
そんなこんな薄暗い境内で暫し物思いにふけっていると突然背後より話しかける声。振り返ると先程追い抜かしていった歳差つがいの男の方。「目的地はここから直ぐ先で難なく到着したが山深い雰囲気がとても異様な上自分達の他に誰も居らずひどく不気味、気味が悪くなって一旦戻って来た。できれば一緒に付いていって欲しい」とのコト。これもまた迷惑なお話ですが、そもそも先達風を吹かせたのは自分の方ですし自分の蒔いたタネから育む業の回収は責任を持たねばと云う意味で色々迷惑なコトになりました。誰にも悪意があるわけではありませんので特に誰か悪いと云うワケではありません。ドラクエだったらあのお馴染みの音楽が流れたであろう邂逅の後何故か私が先導する形で目的地へ向かう。クマが出たら私が襲われている間に逃げればよい絶好の位置の、これもまた迷惑なお話です。悪意は無さそうですが。
途中地元民が建てた、と云うより「開拓民が建てた」と行った方がしっくり来る看板を過ぎる。目的地へは間違いなく近づいている模様。
さらに先、「射止橋」の看板。例のクマがココでトドメを刺されたコトによる橋の名。風景甚だのどかですがおどろおどろしい気配が支配する場所です。
クマが出たら恐らくこのゲートを閉めて対応するわけねえだろなゲートは本日開放
その先唐突に舗装終了
代わって始まったダートは早くも途切れその先・・・
道道の終わりがこの場所という事実は確かに不気味
無事到着と同時に物騒な看板。間違いなくこの場所こそ三毛別事件跡地兼再現地に間違いない
でも君はヒグマじゃないのでは? とゲリラっぽく笹の茂みにオブジェ。子供が見たら本気でビビるかもしれない
けど子供楽しそう。何がそんなに楽しいの?
そのような勘違いを戒めるためか、説明看板は凶悪オブジェ
ただやっぱこーいう場所で一番怖い構造物は素朴に飾り気無く佇む石碑だと思う
悪態は毎度のことですが、当方悪態ついてる間に当方盾代わりに先方を任せた件のカップルさん、地の安全を確かめたかくだくだよくわからんモノの撮影にいそしむ当方を差し置いてずんずん先に進んでいく。
では私もここらで悪態をつくのを戒め当再現地内記念物を見て回るとします。最初に見るのは当然実は一番最初に飛び込んでくるあの巨大な
悪熊が茅葺き屋を襲う場面。先に見学した郷土資料館内事件関係展示物でも、そこで観せられた『熊嵐』でもクマの凶悪さを強調する印象的なシーンです。再現したくなる気持ちはよくわかります。
当然ながら動きがありません。動きがない分迫力に欠けるのでは?などとといって決して「おいらくだー・・・おれだクマだ・・・返事がねえな、いつまで寝てんだ」とか云う落語『らくだ』を演ずる往年の鈴々舎馬風とか巨体の落語家と間違えてはイケナイ
Wikipedia見りゃぁわかんけどこのくま、すんげーでっかくてこんな口にかかればヘルメットなんか簡単にパクリなのです
なぜヘルメットなのかはおもしろくも何ともねぇWikipedia見てもらえればわかると思いますが、いつの間にか当該項目、香ばしい写真が添付されて少し賑やかなことになってます。評価する*1
ともかくこの手、デカい。こんな手で張り手されたらさしもの太刀山峯右エ門でも受け切れるモノでなく頭ごと胸から上辺りくらいまで簡単に持ってかれてしまうでしょう。どんな喩えを持ちようといずれにせよ、再現民家と比べて異様に顔がデカイ顔、凶悪な面相、域内多々クマの肖像で鳴らす苫前町において最高峰に凶悪を表現したクマイコンだと思います。前回紹介した役場前のジュウメンスクナなぞ可愛く・・・は見えないね。むしろあっちは気持ち悪い。
ちなみにクマの襲っている茅葺き屋の中もきちんと当時の開拓民家風に再現。物語の裏側にまできちんと焦点を当てる苫前町の本気度、正直物凄くカビ臭い
裏側と云えば当然このクマにも裏側は存在しますが・・・よいか若いの、はっきり言うておく。茅葺き屋や塀の隙間からこのクマの裏側を見てはならぬ。見たらそのあまりのシュールさに髪の毛が抜けるほど脱力してこれまで培った緊張感の全てが失われようぞ。
まあ、確かにこんな場所を見てしまうと『幕末太陽傳』のスタッフの反対でお蔵になったラストシーンなんか当時理解できるわけありませんよと、そんなことを考えていると先ほどからだいぶ先行していた件のカップル、「ありがとうございました〜」と言って車に乗って去っていく。「ホントにクマの出るかもしれない三毛別羆事件再現地に一人残される」と云う望んでいた状況になったワケだが色々釈然としないのは「脱力して緊張感抜けた」とか「先導させといて先帰るか?」とか、まあ色々複合的な理由があったワケです。
そうとなればもはや怖いモノのあろうはずが無く先の案内図通りに向かうくまの穴、くまの足跡、昨日の大雨のおかげで地面はぬかるみ水溜まりも多く残るというコンディションの悪さも重なって、正直なんだかわからなかった。
唯一緊張を強いられたのはこの再現地村より更に先へ向かうことのできる小道の存在。実はこの再現地道道苫前小平線の未開通部分にでんと建っているコトになっていて、道道塞いでいようが未開通だろうが大して差し障りないであろうとのツッコミはさておきこの奥から如何にも何か招かざるモノの現れそうな雰囲気は氷解水泡と帰した緊張を再び確かな物と固まらせるのに十分な雰囲気。たとえば夜とか本物さんのくまが現れてあの巨大なクマオブジェに何らかの反応を示すのであろうか? 夜な夜な起きているであろう博物館の怪異を想像するようで楽しい
人影のない場所で展示品以外の事象に思いを馳せるようなったらそれこそが去り時なのでしょう。おあつらえ向けに次のまた別の見学客(モノ好きとも云う)も来て再び静寂が破られた*2ワケでもあるし。
一言。確かにクマ出るよな、この場所、今でも、普通に。
(おまけ)ベアーロードクマオブジェ全景
それではお待ちかね、おそらく本邦初、というかこんなもん話題にもなるまい通称ベアーロードこと道道苫前小平線沿いにあるクマオブジェと云うかクマ看板たぶん全種類、ここで一挙に御紹介。風景壮大にして延々走りながらもなかなか飽きが来ること少ないオロロンラインを離れて正直いつ終わるともなくやがてその行苦痛となりかねない三毛別事件再現地への行路、せめてもの慰めか多くクマの看板で道中楽しませようと努力を感じ、一方時たまその看板のあまりにクマの獰猛さを表現した姿にも触れて、いまだこの三毛別事件の地元における扱いが複雑な心情を持っていること感じさせる、そう思えばなかなか味わい深い行路になること間違いなし。決してお役所の縦割り行政が生んだ見解の違いではない。
まずは基本三種
ベアーロード入り口の街古丹別の郵便局にまず揃い組。その後これでもかとばかりに現れます。
先に紹介しました例のクマが撃ち殺された場所にちなんで「射止橋」、その近くにも、ムダに可愛いくて緊張感吹っ飛ぶ
人んちの家屋敷の壁に、まるで夕張の街を彩る映画看板の如く。
子グマ可愛いいの・・・可愛いけど、先日弟の職場の同僚が子連れの親熊に襲われたとの話を聞いて恐懼。北海道に子連れのクマほど怖きモノはなし。
全くクマと関係ありませんが、途中見かけたおそらく個人用三毛別川渡河用途の滑車式手動ロープウェイ。実用品は味がありますね素敵で格好いい。クマに襲われたらすぐ逃げられるしね
クマ関係ないけど味があるその二。廃校の門柱。何も言うまい
などと油断していたらこんなクマ看板に軽く恐怖。本当にようこそ!?
その直後の本気で歓迎看板。看板に恐怖は感じないが、むしろこの短い間の見事な変節ぶりに背筋の冷たくなる思いです
こちらは厳密にはベアーロードと関係ありませんが一応かわいい系で決めてますね。こういうのをかわいい系というのかよくわかりませんが
橋の欄干、擬宝珠の代わりにかわいい系
と油断させていおいてベアーロード最凶に怖いクマ看板。クマなめんなよ! 北海道の本気度がひしひし伝わります。
こちらはなんだかふてくされたクマ。「歓迎」の文字もありませんので、実は一番怒っているのはこのクマかもしれません。何に対して怒っているのかよくわかりませんが、まあ、世の中にでしょう。普通に考えて。
こちらは古丹別の街にあったおそらく個人のお店のおそらく個人のお店で描いた看板。この日は閉まっていましたがたまたま閉まっていたのか常に閉まっているのかわかりません。ついでに云うと何屋なのかもわかりません。文字通り「ジンギスカン」屋なのかそれとも下の看板を信じて「食品スーパー」なのか、ジンギスカン屋だったらちょっと敷居が高いですが、開いていたらまず入っていたに違いありません。古丹別の街には、と云うか北海道の、かつて廃止されたローカル線駅周辺にはこんな感じにいい感じのお店が結構あってそー言う店での買い物優先度はセイコーマートを凌駕するから困ります。ちなみに北海道旅行での買い物優先順位は、そー言う店>セイコーマート>北海道キヨスク>道の駅>>>>>>>>>>>>その他コンビニ>>>>>>>>>>>>>>>>イオン(勝ち負けで言うと負け)とこんな感じでしょうか。
ここまでどーでもいいこと述べておいて最後に述べるのが大変恐縮なんですがこの「ジンギスカン(かわいい系クマ)」の看板撮影したすぐ横にあり何気なく入ったおそば屋さん「三平」さんはおいしかった。ちなみに「三平」さんにクマ関係オブジェはありません。のれんに矢口高雄さんの描く釣りキチ三平の絵があり、その意味でもホンモノです。
まあ、良くも悪くも苫前とてもくまを押し出すくまの町、お気に召したら素通りせずに可愛いさを狙ってるんだか恐怖を煽ってるんだかなんか北海道のクマのあり方に触れるようで実は深いくまのオブジェでも探しに寄り道してはいかがかと。