その七十七 那須郡那珂川町盛泉『温泉神社』

sans-tetes2008-09-07

 経験上、「温泉神社」の名が付く神社の境内に温泉が湧いていたことはない。この神社もご多分に漏れずそんなもの湧いてはなく、温泉どころか手水桶に水も張られてない、何処をどう見ても寂れてあまり手入れされていない神社ではあるが、その割にはやたら立派な鉄の鳥居とその鳥居にすごくだらしなく垂れ下がった注連縄に惹かれて、藪蚊の巣窟になっているであろう木立の向こう本社へ向かう。
 祭神は『温泉大明神』。名が思いっきり体を現すものの、それだけでは由来のわからない神のおわす本社の入口はガラスの引き戸、ほんの少しだけ隙間が空いているがそれ以上は開かない。賽銭箱もないのでお賽銭はその隙間に投げ入れる。光の加減でガラスが反射して中の様子は隙間を覗いてようやくわかる。それでも薄暗くてよくわからない、のがなんかどきどきして覗いていると奉納額の天狗の面と目が合った。背後の木立の向こうでは何やら鳥が鳴いている。
 それなりに立派な本社であるが、こーいう寂れた神社の常、摂末社の荒れっぷりは凄まじく、悲しくはなるものの、実はこれはこれでツボである。きちんとした神社ならちょっと開けることを憚られる社の扉も少し敷居が低くなる(でも私は何処でも関係なく開けられる所はばんばん開けて回る)が、ここの場合、もう私が来る前に全ての摂末社開けっ放しで、中には御神体のお留守なお社もちらほら。開けっ放しの小さな社の中で目に付いた社が一つ。狭い社にエビスさんとダイコクさんとキツネさん、それと鳥居と御幣と御神体。やたらおめでたネタが詰まった満員電車のような社の屋根の銀色なのが格好良い。そう言えばさっきから視線を感じるんだけど、鹿でも近くにいるのかな?