上越線土樽駅

 お金がないので上越線土樽駅に泊まりました。決してそれが目的だったわけではありませんうひひ

 土樽駅はかの有名な上越線群馬・新潟県境ループ地帯の新潟側1番目の駅で、当然の如く山裾、すぐ近くまで山の迫る場所にあります。私が駅を降りた時に乗っていた列車はこの駅着最終列車と云うコトで外は真っ暗、「国境の長いトンネルを抜けるとなんたらかんたら」みたいな感傷は一縷として起きてきやしません。辛うじて雨の強いのがワカルくらいです。ココはひとつ川端先生流でなくまた百間先生流に行きますか。「なんにも用事がないけれど、汽車に乗つて土樽へなんたらかんたら」。

 最終列車で到着と聞けば随分と遅くに来ましたね、などということは全くなく最終列車到着は日本標準時で21時前です。長大ループトンネル内だろうがガス管咥えた小説家が描いた風情だろうが同じ暗闇、全く区別がつきません。いずれにせよ重要なのは、例え9時前だろうが夜の12時過ぎだろうがこの駅を最終で降りると、「次の朝初電が車でこの駅を移動する手段が殆ど無くなる」と云うコトです。あ〜あ、やっちまったよ、というヤツです。

やっちまった以上これ以上焦っても仕方がないので、異様に長いにもかかわらずやることが極端に制限されるという受刑者のような気分で土樽駅を満喫しておきたいと思います。想像では「清水トンネル抜けてすぐ」に駅があるものとばかり思っていたのでホーム端から上り方面を見たところ、残念ながら信号機以外何も見えません。

 当然の如く列車の来る気配さえありません。ので適当に構内を撮影しましょう。ああ時間がたくさんあって嬉しいな〜

 公共施設として弱者に優しくあろうと、体の不自由な方や妊婦さんに向けた優しい表示。ホームの傾斜に注意を促す以前に、そんな人達をこちら側のホームにどうやったら連れてくることができるかの表示のを書くことが先じゃろが。例えばこの駅に妊婦さんや体の不自由な人を無理矢理連れてくるとそれだけで極悪非道だと思う。

 跨線橋を降りて駅舎の手前。この先が駅舎の入り口なのですが、しっかりした駅舎、と云う様子がホームからも窺えます。悪の組織JR東日本の手によって悉くゴミ箱のような駅舎に置き換わってしまったローカル線沿線駅舎にあってここ土樽駅には奇跡的ともいうべき昔からの駅舎が残っています。駅寝の目標に定めた理由はその事に他ならないのですが、とは言っても初めて行く駅でありそして一度降りたらそう簡単に脱出するコトの出来ない駅、やはり実際に泊まり得るに足る駅舎の姿を見なければ落ち着きません。その点この時点でこの土樽駅、大分好印象。やや安堵と云った所ですが

 ひょいと窓から覗き込む駅舎の中、先客さんの影。そう言えばさっき、私が乗ってきた列車をカメラに納める人影が駅舎から出てきたような。先程述べたようにこの時間、上下線共にこの駅を脱出するための列車は翌日までありません。と云うことは車等で来ていない限りこの影の主は駅寝の先客と云うコトになるワケですが、まさか自分以外にそんなバカがいることなど全く想定しておらず、少々焦る。そしてその先客さんの足元よく見ると左右違う靴。正直怪しい。もしやこの駅を定宿にしてる自由民さん?正直怖い。

 どうしようか。駅舎でなるのは諦めてホームで寝ようか。けど雨降ってるし、氷点下に下がったら雪になるかもしれないし、そしたら死ぬし。

 まあここまで来たら駅舎で寝ないと本当に死ぬので意を決して駅舎内へ「こんばんわ」「や!どうも、こんばんわ」挨拶は返してくれました。こういう場合の挨拶はこれでよいのでしょうか? それとも何か、駅寝とか野宿とかで場所がかち合った時に交わす仁義みたいなモノがあるんでしょうか? 詳しい人よろしく。
 先客さんは私と大体同世代っぽい人で、言葉も通じたので一応多少の警戒解ける。更に許可をもらって向かい側の窓際の占拠のお許しもいただきました。これで今夜の宿の確保完了。で次にすることは
 やはり会話です。このまま何の会話もなければお互い物凄く気まずく緊張の中で駅寝を強いられるコト間違いなく、できるだけそれは避けようと、人見知りの私も頑張りました。

 お話を伺った同宿者、お名前は・・・結局最後まで名前聞いてなかったわ。伺ったお話から千葉県出身にも関わらず長野県にあこがれて強い長野愛をもたれている様子に大変感心しましたので、以後仮に「長野さん」とお呼びします、便宜上、よろしくお願いします。
 で、その長野さん、そもそも本日駅寝を全く想定していなかったとのこと。それでは何故本日こんなところにいるハメになったのかと云うと、本日朝イチ電車の予定を組んだ今回の上越線方面旅程、出発時間ギリギリの大慌てのまま飛び出しあろう事か切符だけ持って財布を忘れ無一文で来てしまったとのこと。あまつさえ左右別々の靴を履いて出てきたことも家を大分過ぎてから気が付いたとのコトで、まあこの駅と同じようにやっちまったお話なのですが、長野さんの偉いところはその限られた条件下での宿として思いついた駅寝、何度か訪れたことのある周辺駅の中から駅寝ができそうな駅があらかじめ頭の中でリスト化されており、そのかから選ばれたのが当駅だったとのこと。私は翌日、周辺数駅を回ったのですが、駅寝に土樽を選んだことはまさに適切だったと云うことを切に感じました。長野さんの駅リスト恐るべし・・・。
 それだけの駅情報を頭の中にインプットしているだけあって長野さん、いままでかなり多くの場所を鉄道で旅したとのこと。以後「旅」「テツ」とついでに「千葉出身」云う共通のカテゴリで話題途切れることなくお話が弾みまして、特に私、変な駅行は比較的最近始めたのですが長野さんはもうずっと前からそんな旅、駅巡りをされていると云うことで色々参考になるお話も伺うことができました。長野さんの場合今回の駅寝はケガの功名(?)と云う側面が強いのですが、これが所謂古人の謂う「旅は道ズレ余は駅寝」と云うヤツですね無理過ぎるだろ。お話の間、既に終電車は行ってしまっているのですが結構の本数の貨物列車、それと一本だけ当駅通過の旅客優等列車(私は便所行ってて見逃した)が通過。終電車が行ってしまったからといって某飯田線や某只見線のように後は暗黒の闇と静寂が支配するというワケでは全く無く、また駅のすぐ向かいを関越自動車道が通過、トラック始めとした車の音が聞こえたり夜半強くなった雨音がひっきりなしに聞こえたりと結構賑やかなのです。

 その後11時30分頃でしょうか。突如駅前で車の止まる音に車のドアを開ける音。この駅車で来れるのだと感心も束の間なんか駅のドアを開ける音。バカが襲撃に来たか? これはちょっとマズイ、と今回二回目の警戒。二重になった駅の扉、いよいよ内側の扉を開けて入ってきたのはやはりガタイのヨイ、腰に棒状の武器を持って、更にもう片側の腰の辺りに拳銃をぶら下げた・・・お巡りさんでした、3人。
 「なにしてんの〜? 電車もうないよ〜」これが都内の新宿とか渋谷とかでの身に覚えのない職質だったら無茶苦茶反発して「任意ですか?任意なら拒否します、協力できません」の対応ですが、今回於いてはどちらかというと自分らに非がありそうなのでおとなしく質問に答えます「寝るんです」「宿ないのです」「駅寝です、スイマセン」「通報があったのですか?」「お巡りさんこの駅にはよく来られるのですか?」こう文章化すると本当にバカです。まあ、警戒を解くには本当に饒舌にバカな会話に終始するに越したことはありません。これは大分功を奏したようでお巡りさんは概ね「駅に泊まってるただのバカ」と判断いただけたようでして、型どおりの質問と連絡先、身分証の確認の後適当にダベりに入ります。この駅から先は完全に山ん中なのでパトロール先としては一番最後の地点に当たるのでしょう。ちなみにこの駅に巡回によく来るかと聞くと「時々君たちのように泊まっている人がいるから一応来ることにしている」とのコト。何気に安全の確保されている宿でありました。宿じゃねぇよ。
 「今夜は寒くなってもしかして氷点下行くかもしれないから気をつけてね」「今の時期のクマは冬ごもり前のエサを探し回っててキケンだから山の方へ行く時は気をつけてね」と注意事項を述べるとお巡りさん方は去っていきました。それにしても職質でクマに注意を言われたのは初めてだ。

 職質を期にもう寝ることにしました。お互いの明日の予定、長野さんは無一文で上越線沿線を19時代の越後湯沢発新幹線までウロウロしなければいけない、私は歩いてお隣の越後中里駅まで歩かなければいけないと無意味に過酷な予定が待ち構えている、と云う事情もあったのですが。
 ただ、始めから駅寝を、それも晩秋のそこそこに厳しい環境での駅寝を想定して準備してきた私と違い長野さんは寝袋はおろか寝る時下に敷く敷物の確保さえできていません。いくら屋根の下でも、氷点下達するとマジで死にかねません。そうなっては大変なので余ってる新聞紙や上に掛け物としてレインコート、上着を貸してあげました。蓑虫のようになって靴も履いたままでそれでも物凄く寒そうな格好の長野さんがちょっと心配でしたが、私も眠いので敷物、寝袋、白金カイロとほぼ完璧の装備でほぼぐっすり寝ることができました、スイマセン。

 土樽駅の一番列車は6時40分頃。それまでに起きて片付けて、せっかくなのであちこち写真撮って、となるとどうしても朝5時には起きなくては間に合いません。心配だった長野さんはどうやら無事なようです。が、「新聞紙とかなければかなりやばかった」とのことなのでこれは貴重な証言として今後の駅寝の際には十分に注意しましょう

 相変わらずの雨、山の方は靄、この時期歩き回るにはほぼ最悪のコンディションで迎えたこの日の土樽駅、周囲少し明るくなったくらいでぱっと見の秘境感は相変わらずです。素晴らしい。

 クマの看板の注意事項。文言クマあんまかんけーねー。

 そんなこんなでやってきた一番列車は楽しい楽しいループ線経由の水上行き。

 長野さんはこれに乗って行かれました。面白い経験させてもらいました、お気を付けて〜。と云うか今日一日飲まず食わずで大丈夫なのだろうか? 改めて心配に。と云うワケで長野さん(仮)、無事帰り着いてもしこのブログを見ているようならご一報下さい。

 列車が行ってしまうとあと大分しばらく列車の来る気配さえ感じませんの。

 名所案内に書かれた名所が全て、簡単に行くことが出来ない

 駅の上方にあるのは山荘だそうですが今は使われていないのか、単にオフシーズンのためなのか、人の気配が全く感じられません。 
 この後の予定によるとお隣越後中里駅8時台の列車に乗らなければいけませんのでそろそろ私も土樽駅を離れることにしましょう。なかなか楽しませてくれました。さらば。
 最後に当駅駅寝のための注意事項です。断っておきますがこれは決して駅寝を勧めるモノではありません。単に自身の経験上気付いたことを書くだけです。当然この記事を元に駅寝を試みられて何かトラブルに遭ったとしても当方何ら関知も責任も持ちません。

 ベンチ・・・「横になれるタイプ」と「肘掛けが付いてなれないタイプ」の2種類、全3台。ベンチで寝れるのは一人だけです。
 床・・・樹脂製。意外と断熱。
 トイレ・・・あり。汲み取り式。紙はほとんどなかったので普段の駅利用者のためにも持参を
 水道・・・あり。トイレに洗面所、ホームに蛇口。ただし「飲み水には向かない」
 その他・・・飲料の自動販売機アリ。飲料確保には重宝するが夜間就寝時音が気になるかもしれない。また駅舎内照明は一晩付けっぱなし。辺りに人家なく人が来そうな環境ではないが、夜間も貨物列車の通過があること、駅舎の目の前が関越自動車道でこれも一晩中トラックを中心に自動車の通過があること、加えて前記の自販機、照明、何らかの用意をしなければ睡眠の妨げになる可能性も。
 携帯通話可。当方イーモバイルケータイで電波が立ったので全キャリア通話可と思われる。また夜間警備員(警官の警邏とも云う)アリ。対応によって敵にも味方にもなると思われるので上手く立ち回りましょう。この存在により意外に安全は確保。ただしあくまでもタイミング。